わたしと、ファラオくん!

□わたしと、ファラオくん!(1)
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帰宅。
わたしは自分の部屋へと入り、今日の戦利品を眺めていた。ふつくしい!
中でも一番のお気に入りのパピルスに手を伸ばす。いつ見ても感動する。このパピルスが今はもう天然物がなくほぼ人工の物だと知ってしまうとすこし古代エジプトの人々がうらやましく疎ましく思う。ずるい!
そして、これは使えると買ったクリアファイル。これには今回のエジプト展で目玉となっていたアメン神をツタンカーメン王が写っていた。だ、だめだ…イケメンすぐる…!

「ツタンカーメン王テライケメン!…それにくらべて…」

独り言をこぼしながら、わたしは今日買ったファラオボールペンをかばんの中から堀だした。

「この台湾製のツタンカーメン王は、だめだなあ。同じツタンカーメンにもほどがあるよ!」

台湾製と聞かされて、ますます情けないような、失敗作のような気持ちになる。
絶対、明日みんなに笑われるな、別の意味でも。
…そんなことを思っていたときだった。

「おい、貴様。今までの数々の無礼をどう償うつもりだ?」(CV:こやす)
「うわああああ?!!」
「お、おい!やめろおおお!うわあああ!」

思わず、ファラオくんを投げてしまった。がつん、と壁に当たり高い音が出る。悲鳴とともに飛んでいったわたしのファラオくん。え?なにこれ?しゃべんの?ワオ!

「イタタタ、貴様!いい加減にしろ!」
「はひ?」

あ、なんだろう、この光景。ファラオくんがひとりで立ってる。てか、浮いてる。わたし、今さっき買ったばっかのボールペンとしゃべってるんだ。え、うそだろ。俺は信じない。きっと、あれだ。そういう機能なんだ!うん!そうに違いない!それか夢だ!夢だ!!このこやすボイスは夢なんだ!

「貴様!!許さぬぞ!!」
「わー、すごい。これしゃべるんだー」
「慣れなれしく触るな!女!」
「あはは、すごーい。台湾すごーい」
「いい加減にしろ!!」
「うわッ、イッテ!こいつ刺したあああ!」

ファラオくんの芯がわたしの指に突き刺さった。痛いよこれ。血は出てないけど。てか、ほんとにナニコレ?
わたしはしびれを切らして叫んだ。

「あんた何モンなのよ!なにしゃべってんの!」
「…ふ、見て解らぬか?余は偉大なるアメンへテプ四世を父とし、わずか九つでファラオとして君臨すると同時に、伝統的な神であるアモン=ラーの信仰を復活させ、トゥトアンクアメンと改名し名を馳せた第18王朝ファラオ、ツタンカーメン王なるぞ!!」
「すみません、見てわかりませんでした」

時が止まった。
だって見て解るわけない、あれはボールペンだ。ツタンカーメンの棺おけを模してるからって。ボールペンじゃん。わかるかい、ボケエ。

「き、ききき、貴様…」
「だってボールペンじゃん」

ファラオくんは雷にでも打たれたのかというような顔をした。もっとも喋っているときもその口は動くこともなく、表情の変化がないので読み取れないのだが。
わなわなと震えていることだけはなんとなく解る。てか古代エジプトの人間にボールペンて言って理解できてるのかな。あ、てか結局なんなんだろう、オカルトか?オカルトでいいのか、これ。

「無礼者めが、言葉を慎め」
「あ、はい、すみません」

いやいやいや、なに、これ。ほんとなんなの。だってファラオでしょ?あのファラオでしょ?しかもツタンカーメン?わたし今日像見てきたじゃない、会ったじゃない。崇めたじゃない。そのツタンカーメンのこと言ってるの?え?話が良過ぎるお。古代エジプト好きにはたまらないこの展開が開かれようとしているのか?ま!さ!か!だいたい…

「おい、全部声に出てるぞ」
「うへええええ、すいませんんんっ」

おちつけ、おちつけ。今、このボールペンはわたしのことを不振に思っている。だめだ。ボールペンにそんなことを思われては。

「お前、ケネト(エジプト)がすきなのか?」
「はい?」

なんでわかった、こんなにいろいろ品を買ったからか。

「なんとなくだ。では今、余と話せていることがうれしいのか。どうなのだ?ん?」
「…う、うれしい…です」

なんだか気恥ずかしくなってきた。あと、 ボールペンに笑われている気がする。
ファラオくん、仮に自分がほんとうにファラオであるなら自分が今ボールペンていう未知の物体になってることどう思ってるんだろうか。ファラオにとってはこんなことは日常茶飯事で些細なことなのだろうか。

「ふん、気に入ったぞ。女、名をなんという?」
「…あ、はるかです。古河はるか」
「いくつだ?」
「え?」
「歳だ、そんなこともわからんのか」
「高校3年生なんで、18?(まあ3月生まれだから本当は17なんだけど)」
「なんだ余より年下か」
「何歳なんですか?」
「御歳19になる」
「へえー」

心なしか、なんとなく彼が男に見えた。ボールペンだけど。でも、ボールペンに敬語は癪だな。

「タメ語でいいですか?」
「なぬっ!?」

え?驚くとこ?
あ、タメ語の意味がわからないのか。

「敬語使わなくていい?つか使わないね、うん」
「貴様、なれなれしいぞ!」
「いまさらだね」
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