わたしと、ファラオくん!

□わたしと、ファラオくん!(1)
1ページ/4ページ

エジプト展がとてもたのしかった。とてもとてもたのしかった。
その思い出にとわたしはおみやげの数々を買った。パピルスのしおりがあったときは感動すら覚えた。そして、ツタンカーメンの棺おけを模したきんきらきんのボールペンを買った。その名もファラオボールペン。そのまんまで逆に笑えてくる。


わたしと、ファラオくん!(1)

完璧にネタだった。ボールペンだし、あっても損はない、そんな軽い気持ちで手を伸ばし買ったのだ。エジプトからの直輸入コーナーにあったし。
買う時に店員のささやかな忍び笑いが癇に障った。このブサイク。このファラオさしたろか。
家族で来たために、隣に居た母親も耐え切れずうっすら涙を浮かべ大笑いしている。

「ちょっと、お母さん。うるさい」
「だって、そんなのほんとに買うなんて思わないから。それで受験したら?」
「そんなことしたら試験官に没収されるよ。450円パーじゃん」
「え?それ450円もしたの?」
「はい、なにか問題でも?」
「ばか」
「いいじゃん、あたしのお金なんだし」

母親に言われてたしかに、ネタで買うにしては少し高いと思ってしまった。だけど、使えない訳ではない。芯だって変えれば何度も使えるだろう。ただこれを使う勇気がないだけで。きんきらきんは目立つ。
ずっとそのファラオボールペン(ファラオくんと呼ぼう、長い)を手にして眺めていたら、父親がそのファラオくんをわたしの手から取り上げた。

「こら、なにすんの返せ」
「はるか、これ台湾製だぞ」
「は?」

なん…だと…?
エジプトからの直輸入じゃないの?直輸入品売り場にあったのに、なんだこの騙された感は。450円返せ。
思わず手に持っていたかばんを握りしめた。そのときに爪が手のひらに食い込んで、これまた悔しい思いをした。あたし何かしたか。

「まあまあ、そんなもんだよ。気にするな」
「気にします」
「はい!エジプト製じゃなかったので、ボッシュートです!」
「いいから返せ」

いらんBGMまで付けて、某番組司会者の真似をしてからわたしに返した。お客さんたちの目が痛い。笑っているってことはわたしたちが微笑ましい家族にでも見えるのだろうか。わたしはこんなにも悔しいというのに。なめやがって!家族で来るんじゃなかった。

「もう、帰るわよ」
「あ、はい」

母親が言った。そうだよね、エジプト展に着てからもう3時間以上経つモンね。帰ろうか。まだ腑に落ちんが。
すこしやりきれないわたしは手の中にあるファラオくんを思わず握りしめてしまった。ボキッと鈍い音がなる。

「イタッ!」
「あ、すみません」

…?
なんだ?今なにが起きたんだ?
とっさに謝ったわたしだが、声はたしかに下から聞こえた。不意に下を向く。なにもない。
なんだったのだろうか。子供にでもぶつかったかな?勝手にそう結論付けたわたしはファラオくんをかばんの中へとねじこみ、不思議そうにわたしを待っていた母親と父親の元へと走った。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ