ONE PIECE

□君が笑ってくれるなら、俺の役目はもう終わり
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「よう、遅かったな」


「……ああ、……どうかしたのか?」


「ん?ああ、ついさっきまで眠れなかったんだよ、このお嬢様は、ね」

















なかなか寝付かなかった名無しさんがやっと、腕の中で眠り。
起こしてしまわないように、そっと抱き締めて。


小さくみじろぐ名無しさんがどうして、あんなにもくるしそうにしていたのか。
知っているようで知らないその答えを考えていれば、ドアの向こうから物音がして。


街に出ていたレイリーが帰ってきたのだと悟る。
名無しさんを起こさない程度で声をかければ、静かにドアが開いて。
















「珍しいな、おまえがいて名無しさんが寝付かないのは」


「おまえがいなかったからな」


「……俺がいたところで変わらないだろ」






















月明かりが、レイリーを照らす。
差し込むその光はひどくやさしいけど、なぜか少し切なくて。


俺は名無しさんに何をしてやれるのか。
考えても考えても、しっかりとした答えは見つからないまま。
















「なんだ、随分機嫌が悪そうだな」


「そうでもないさ」


「女にフラれたか?」


「そんなの、今に始まったことじゃない」


「プレイボーイの副船長がなにを」


「……名無しさんに吹き込んだのはおまえか、ロジャー」


















さらりと、名無しさんの髪をすくって撫でる。
ずっとむかし、ある街で出逢ったこの少女は。
あの頃ただひたすらに両親の帰りを待っていて。


まっすぐな瞳で俺を見上げたことを、俺は生涯忘れないだろう。
あの時からすべては始まって。




















「本当は、わかってたんだよ」


「?」


「名無しさんは、利口な子だから」


「……ああ、そうだな、名無しさんは誰よりも人の気持ちに敏感だ、」















父親も母親ももう、迎えに来てはくれないこと、本当はしってたのだ。
なにもかも知っていてそこで待つ少女に、惹かれるのは必然のようで。


救いたいだなんて、大層なものじゃないけれどただ。
彼女の笑顔が見たかったんだ。


ただそれだけ。






































『お嬢さん、こんなところで何をしてるんだい?』


『オジサン、だぁれ?』


『オジサンはね、海賊なんだよ』


『かいぞく、……うみを、じゆうにたびするひと?』


『ああそうだ』


『いいね、たのしそう、』


『お嬢ちゃんは、楽しくないの?』


『わたしはね、まってるの』


『待ってる?』


『うん、ママとパパが、いつか来てくれるから』














声をかけたのは気紛れだろうか。
きみを見つけたのは、偶然だっただろうか。














『まってなきゃ、ママとパパがこまっちゃうから』











思い出せるのは、その小さな体には不釣り合いな大きな絶望を、おまえが背負わされていたこと。


欲しいものは手に入れる。
海賊らしいその想いでさらうように連れ去ったのは、宝石のような瞳を持ち、片隅に咲く花のように小さな少女。


























君が笑ってくれるなら、俺の役目はもう終わり
(だから願わくばいつかきみが俺の傍を離れるその時は、)
(笑っていてほしいんだ、)





























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