book

□拓蘭
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ありふれたこの世界


俺の世界には灰色のおもちゃとピアノ
そして周りの大きな桜の木

そして、やけに鮮明に写る茶色の髪の男の人




俺は、どうしてここにいるんだろう



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※霧野先輩が記憶喪失です

ご注意ください

前世ネタもあったりなかったり
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302号室には真っ白な壁紙と
ピンクの髪のきれいな人


「なあ、狩屋」


水色の髪とは全然違う
きれいな、
なんていうか、そう

桜の妖精が神様に頼んで人間の形にしてもらったみたいな

そんな人

「なんですか、先輩」


「俺は、どうしてここにいるんだ」


目には何も映っていない
俺の顔も

ただうつろに天井を見上げている霧野先輩
目は見えているけど、気持ちがない

生まれたての赤ちゃんみたいな目
あ、生まれたては目が開いていないのか?


「俺は、何をしたんだ」


何も知らない目
大切なものを忘れた桜の妖精

もう、後には戻れない


部屋のドアからノックの音

ああ、来てしまった


妖精の大切な人が
妖精が忘れてしまった大切な人が


「霧野…」


おそるおそる、という感じ
ドアが少し開く

ねえ、知っているんでしょう?
霧野先輩にはもう、あなたの記憶はない

「…?」

「…っ」


何もわからない霧野先輩はただ見つめる
耐えきれなくなったキャプテンは、涙を流す


ああ、なんて俺はいやな奴

見守ることしかできない



「ごめん、なさい。俺のせいで泣いているんだろ」


キャプテンを抱きしめる先輩は無意識

何も知らない先輩はずるい
相手がどんな気持ちで泣いているのかも知らないで

なんなんだよ


先輩は、絶対に忘れてはいけない人を忘れたんだ







桜の妖精が恋した作曲家
俺はその叶わぬ恋を見守る猫
この姿になる前の人生でだって
二人は結ばれなかった

せっかく同じ姿で生まれたのに

恋が実ったのに

もう一度、やり直し




桜の妖精は猫じゃなくて、また作曲家に恋をする

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