Devil's story.
□犀飲蝿食
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調理場では、どの悪魔も困り果てていた。
「ねえ食料はもう少ししかないの?」
「無いな」
「私が取って来た魚も無いです」
ゴモリーの問いに、マルコキアスとウェパルが答える。
「パイモンどうしよう」
ゴモリーに上目遣いで見られ、少しでも量を増やそうと、努力していたパイモンは手を止める。
「僕が探して来ます」
当ては無いが、皆が困っているなら動かなければいけない。
野次馬達が何か持っているかもしれないという期待から、パイモンは食堂に向かった。
「今日は皆様お揃いで、どうかなさったのですか?」
メフィストフェレスは、普段と違う万魔殿の雰囲気が、気になりその場にいたアスモデウスに、声を掛けた。
「ベルゼとベヘモトが、どっちが多く食べられるかって、あいつら可愛いなあんなおいしそうに食べて……そそられるな」
黒縁眼鏡のズレを指で修正し、眼鏡の奥で目を輝かせる。
「そうですか」
その程度で、こんなに盛り上がるのか。周りの悪魔達を一瞥して、メフィストフェレスは呆れた。
「なぁメフィスト」
「なんですかアスモデウス様?」
逃げられないように、壁に押し付けられ、息がかかる程にアスモデウスは顔を近付ける。
「この騒ぎに乗じて、どうだい?」
メフィストフェレスの仮面を外し、アスモデウスに片手で両手首を掴まれる。
手当たり次第だなこの馬鹿は。等とは言えず。無言のままでいる。
「すみません誰か食べ物持ってませんか!!?」
救いが来た。
「どうしたんだい?パイモン」
「何事もなかったように」と、取り繕う事も無く、アスモデウスはそのままの体勢で言う。
「その前にメフィストフェレス様をお放し下さい。」
パイモンは鋭くアスモデウスを睨み付ける。いくら、女のような端正な顔立ちでも、ルシファーの側近だ。アスモデウスを諦めさせるのには、十分な気迫だった。
「そんな目付きも可愛いな」
両手を上げ、アスモデウスはメフィストフェレスを解放した。
取り返した仮面を着け直し、助かった。と思えたのも束の間。
「メフィストフェレス様に、頼みたい事があるのですが……従えてい霊を分けて欲しいのです」
「だが断る」
理由は解っている。解っているからこそ、断った。
「申し訳ありませんね。では」
群がる悪魔達を掻き分け、メフィストフェレスは全速力で逃げた。