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□第六章 結び合う想い
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「これでルネスの【聖石】は破壊された…さあ、ルネス王子エフラムよ。覚悟はいいな?」

魔王は私からエフラムへと向き直り、魔法を放とうと彼に手をかざす。
変わらず身動きが取れない絶望的な状況でも、エフラムは魔王に鋭い視線を向けたまま口を開く。

少しも諦めた様子なんて感じない。


「安心しろ。貴様を消した後、すぐにその小娘も後を追わせてやる」
「く…そ…やれ……俺を仕留めに来い。お前が止めを刺す間に…俺も一太刀浴びせてやる。俺が倒れたとしても、ナマエは殺させはしない」
「エフラム、様…」
「……」

それからエフラムの顔をじっと見つめたまま、魔王は特に何もしてこない。
そんな彼を不審に思ったエフラムは声を上げる。

「どうした、何故来ない!?怖気付いたか!」
「…ルネス王子エフラムよ。貴様がそうまでして戦うのは何故だ?祖国再興のためか?魔を滅ぼすためか?それともあの妹やこの小娘のためか?」


「それら全てのため…そして、俺の友リオンの…あいつの魂に報いるためだ。優しかったあいつの姿を…歪ませはしない」


この場にエフラムの強い意志が込められた声が響く。
一切の迷いのない言葉は、私の胸の中にも響き渡るのを感じた。

「!」

そして次の瞬間、魔王の表情はとても穏やかなものに変わる。
ずっと纏っていた禍々しい気配が一瞬にして消え去り、顔に落ちていた影は無くなっていて。

魔王…ううん、違う……



「……やっぱり…エフラムは変わらないな」



彼から発せられた優しい声……
それは魔王と呼ばれる者から発せられる声だとは到底思えない。


「!!何…?今…何と言った?」
「……」
「どういう事だ…?お前は魔王…古の時代に生きる邪悪のはず…リオンの心は残らず食らったと、お前はそう言ったはずだ!それなのにお前が…何故俺の…?」

彼は優しい表情でエフラムを見つめていて、エフラムはその事で余計に動揺を誘われている。
そんなの無理もない、だって今目の前にいるのは…


「まさか…まさか…お前…!」
「……」



「リオン…なのか…?」



静かに響いた問いに魔王…リオンはゆっくりと頷いた。


「うん…そうだよ。僕はグラド皇子リオン…魔王なんかじゃない。ごめん、エフラム。僕が魔王に心を食べられ死んだっていうのは…あれは、嘘なんだ」
「な……何故だ!?何故そんな…!」

震える声で叫ぶエフラムに、リオンは穏やかさを保ったまま静かに言葉を続けていく。

「ねえ、エフラム。僕は君が好きだった。僕は君が嫌いだった。僕はずっと君に憧れてた。君みたいになりたかった。そして…僕なんかじゃ決してなれない事を知っていた。僕にとって君達兄妹はあまりにも眩しすぎたんだ。影である僕が嫉妬せずにはいられないくらいに」
「リオン…」


リオン本人から彼の本音を聞いたのは、エフラムにとってこれがきっと初めてだろう。
二人は今、どんな気持ちでここに立ってお互いの姿を見つめているのか。

それを考えるだけで涙が溢れてしまうくらい、切なくなる。


「あの【魔石】に触れる前…僕は、予見によって未来を見たんだ。僕の前には二つの道があった。一つは魔王に身も心も侵され、やがて滅んでいく道…もう一つは魔王の支配に抗いその力を得る道…そして僕は……く…っ」
「リオン!」

リオンの内にある魔王と彼の心がぶつかり合っているのか、彼は一瞬苦しそうに頭を抱えた。
そんな彼の様子にエフラムは必死で呼び掛ける。
それからまた少し調子が戻り、リオンは続きを話していく。


「僕は【魔石】を手にした。魔王は僕の心を食らい、僕の肉体を乗っ取ろうとした。僕は魔王に蝕まれかけ、今にも消えようとしていた。でも君の事を思い出した時…意識が爆ぜた。このまま消えたくない…そう思った。魔王に操られ、自分を失いかけながらも…今、僕はこうして自分を取り戻す事が出来た。人間を蝕み、支配する魔王のどす黒い思念…でもそんなものは、僕達人間に比べたら可愛いものなんだよ。二つに分かれた未来のうち…僕は二つ目を選び取ったんだ」


「……」


エフラムはただ黙ってリオンの話を聞いている。
ううん…何も、言えないんだ。


「でも、君達の前にリオンとして現れたくはなかった。リオンは憐れな犠牲者…魔王こそが全ての元凶…そういう風に見せかけたかったんだ。そうだよエフラム。僕は魔王…そして魔王は僕なんだ」

そう言い切ったリオンにエフラムはようやく震えた声で口を開く。


「嘘だ…違う…そんなはずはない。リオンは…俺の親友は優しくてお人好しで…いい奴だったんだ…そのお前が…そんな真似をするはずがない!」

目を閉じて首を横にぶんぶんと振り彼はそう叫ぶ。
目の前の現実を見ないように、受け入れないように。

「エフラム…」
「お前は…お前は魔王だ。そうに決まってる!俺を騙し…動揺させるためにそんな見え透いた嘘を…!そうだろう!?そうだと言ってくれ、リオン!」

懇願するエフラムにリオンはただ悲しそうに笑う。
そして一度目を閉じた後、少し間を置いてから話し出した。


「ごめん…エフラム。よく聞いてエフラム。十日後…月が闇に呑まれる夜…僕は闇の樹海で儀式を執り行う…その儀式によって僕は大きな力を得るんだ。世界を…グラドの大地さえも変えてしまうような力を」
「世界…グラドの大地…?」
「でもその後…僕はもう自分を保てなくなる。古の魔王となって、全ての人々を滅ぼしてしまうかもしれない。エフラム。それを止めたいなら闇の樹海へ来て欲しい。約束だよ」


そう言ってリオンはこの場から魔法陣と共に消える…と思った。
けれど、今度は私の方へと向き直ったのだ。

「君の事も…僕は知ってるよ。見えたんだ。君がここに…この世界に来る未来が」
「!」


彼の言う私がこの世界に来る未来が見えたという事…
それはおそらく、さっき言っていた聖石の力で未来を予見した時だろう。

それならもうずっと前から分かっていたの…?


「待て…それは何の話だ…?ナマエがこの世界に来るって…」
「それ、は…」
「いずれ分かるよ。僕は…また君を迎えに来るから。ナマエ…」

次の瞬間、今度こそリオンは魔法陣と共に消えてしまった。
去り際にあまりにも切ない笑みを残して。

彼がこの場からいなくなった事により、私は体が動かせるようになった。
エフラムを見ると、力なく地面へと片膝を立てて座り込んでいる。


「エフラム様…っ」
「ナマエ…」


彼に駆け寄りそっとその肩に触れる。
私を映すその瞳は、いつもの綺麗な碧色が今は影で覆われて光が失われていた。
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