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□第七章 消えない光
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闇の樹海…入り口に到達すれば、ミルラでなくともその異常な気配を嫌でも感じ取る事が出来る。

ミルラは竜族の長であり、彼女の父でもあるムルヴァさんの事を話してくれた。
いつもどこか不安気にしているミルラだけど、彼の事を話す彼女の顔は少し柔らかさの戻ったものになっていたんだ。


「……!」
「どうしたミルラ…?」


突然表情が強ばったミルラをエフラムは不思議に思い声をかける。
けれど…彼女は何も言わず黙ったまま。

「ミルラ、大丈夫か?具合が悪いのなら…」
「い、いえ…何でもないです。私、頑張ります。頑張って魔物を…倒しましょう」

エフラム達は気付いていないみたいだけど…健気に振る舞うその声と手は微かに震えていて。

もうこの時点でミルラは分かっていたんだね…
私は…二度も分かっていながら、彼女を助ける事が出来ない。
今、胸の内で独り悲しみと闘うミルラを…せめて少しでも支えられればいいと、私は彼女の手をそっと包み込む。

ミルラは一瞬肩をピクリと動かしたけれど、俯いたまま私と目が合う事はなかった。
ただ…繋がれた手に強く力が入ったんだ。


私達は魔殿へと向かうために、闇の樹海に巣食う魔物達を倒しにかかる。
ここに現れる魔物達は今までと変わらない種類ばかりだけど、桁違いに数が多い。

それに今回はアーヴに加え…ドラゴンゾンビと化したムルヴァさんが待ち構えている。
ミルラと彼を対峙させるのだけは避けないと…
そうしなければ、彼女の心により深い傷がつけられるのは明確だから。


「っ、さすがに数が多いですね…」
「これも魔王の影響かしら…」

エイリークとターナが倒しても倒しても湧き出てくる魔物達に、少し参った様子を見せる。

「この森も…以前は美しい姿だったのを思うと、胸が痛みます…」

今はこんな事になってしまっているけれど、ここも普段は魔物がいない神聖な場所だったはず。
目の前に群がる魔物達を見ていると、そう思わずにはいられなかった。

「ナマエ…」
「そうね…早く魔王を倒して、本来の姿を取り戻しましょう!」

私達三人は顔を見合うと強く頷いた。


襲い来る魔物達を倒しながら私達は魔殿に近付いていく。
途中ミルラの様子を見ると、いつもと変わらず竜に変身して戦っている。

けれど、魔殿に近付く程に彼女の顔が苦しみで歪むのが分かった。


「ぬうぅ…忌々しい目をしおって…何故絶望せぬ…何故諦めぬ…!?」

ドラゴンゾンビの隣に佇むアーヴの前まで来ると、彼はそう声を荒げた。

「その理由をお前に話したところで理解されないのは分かっている。そこを退いてもらおうか」


そんな彼に対して槍を向けるエフラム。
前回に次いでアーヴとは二度目の戦い。
正直言って、彼に時間を割いてはいられない。
強さは変わらないだろうけど、彼の使う魔法はやはり強力なものだろう。


「はぁっ!」

エフラムからの最初の攻撃にアーヴは怯みながらも反撃を仕掛けてくる。
だが、エフラムはそれを避けてみせた。
そして次に必殺の一撃で彼の身体を貫いた。


「ふぇふぇふぇ…わしを倒したとて、もはや止められぬぞ。真なる魔が…お目覚めになる…」


最期にアーヴは不敵な笑みと共にそう言い遺すと、今度こそ倒れて動かなくなる。

アーヴは倒した…けれど、残るは…

彼の立っていたすぐ隣に居るドラゴンゾンビへと目を向ける。
彼を倒さなければ、魔王のいる魔殿に入るのは不可能。

だから、もう選択肢はひとつだけ。


それならせめて…安らかに眠らせてあげたい。


しかし私達が武器を構えた時、ふらりと誰かが横切った。
ドラゴンゾンビの前に立った小さな背中。


「…っ…ごめん…なさい…」


そう、ミルラ自ら竜石を手に挑んだのだ。

「ミルラ…!?ダメ、貴女は下がって…!」

咄嗟にその背中に向けて叫ぶと、彼女はこちらを振り返る。
彼女の赤い大きな瞳には、今にも泣き出さんと大粒の涙が浮かんでいて。
それを見た途端、もう何も言えなくなってしまう。


ミルラは竜へと姿を変えると、目の前の変わり果てた父と対峙した。
彼は…もう正気ではないため、娘を目の前にしても何も反応がない。

そして腐敗のブレスを受けて負傷しながらも、ミルラは自分の手で彼を眠らせた。
ドラゴンゾンビ…ムルヴァさんが倒れると、その遺体はヴィガルド様の時と同様に灰へと姿を変えてしまう。

あまりにも残酷で儚すぎる、父の最期。

その様子を小さな背中はただ静かに見つめていた。
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