Short2

□『策略欲望、時々安楽』
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ザワザワとした空気。
教室の後方で、冬獅郎はその中で際立って映えている色だけを見つめていた。
真剣に先生の話を聞いている姿は、後姿だけでも可愛らしい。

(俺も昔は……)

そんな感慨深さな気持ちにまでさせる。
自分の時の授業参観も、果たしてこうだっただろうかと思う。
しみじみとそんなことを考えていると、呼ばれた声にハッとした。

「はい、じゃあ一護くん」
「はい!」

シャキッとした声で返事をすると、呼ばれた本人は堂々と黒板に向かっていた。
教師が指定した場所に、一護はすらすらとチョークを走らせる。
その字体が、小学校3年生にしては随分綺麗な形だ。
だからか、冬獅郎は近くにいた保護者が綺麗な字ね、と話しているのを聞いて誇らしくなった。
何を隠そう、教えているのは自分なのだから、喜ばない筈がない。

「はーい、よく出来ました。みんなも一護くんを見習いましょうね!」
『はぁい!』
「じゃあ、一護くんは席に戻ってくださーい」
「はい、センセ」

元気よく返事をすると、一護は手をズボンで叩きながら席に戻る。
その振り返り様、冬獅郎がいることに気づくと、その顔は一瞬で破顔した。
ちゃっかりVサインを作って、子どもらしくアピールする。
それが何とも愛おしくて、お返しのつもりで冬獅郎はひらりと手を軽く振った。

(やっぱ、仕事切り上げて正解だったな…)

ほのぼのとした親子の時間が、確かにそこには存在していた。
しかし、ギョッとしていたのは周りの保護者たちだ。
実は途中から入って来た冬獅郎は、その容姿ゆえかなり人目を惹いていた。
一体誰の保護者だろうか、と誰もが思っていたのだ。
そこに一護と冬獅郎のやり取り。親子にしては似つかわしい気もするが、一護と冬獅郎が関係性のある間柄というのは、今ので判明した。

((でも、確かにあの組み合わせならアリだわ……))

母親たちの熱い視線も物ともせず、冬獅郎は誇らしげに一護だけをひたすら見つめていた。
可愛いかわいい、自分の愛する息子を。






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