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□2Memory
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ピィィィィ―
どこからか、侵入者を伝える警笛が聞こえた。
「侵入者?」
緋色の長い髪を床に散らばせながら、少女がふと読んでいる本から顔をあげた。
白い肌に、その髪の色はよく目立っている。
ペラっと、本のページをめくる音が再び聞こえはじめた。
彼女の興味は警笛の侵入者よりも本の内容にある。
と、
唐突にその本が閉じられた。
『あーつまんない』
後ろの本棚に寄り掛かるようにして本を投げ出す。
自らが履いているものがスカートなのにも関わらずに、彼女―もとい私は足を折り曲げた。
『ほんと、つまんない…』
どこからか聞こえてくるピアノの連弾をBGMに、ただため息をついた。
ラトウィッジ校の大規模図書室。
その中二階にあたる通路で私はなにをするまでもなく座り込んでいた。
中二階に至るまでの図書室は吹き抜け式なので、何歩分か前にある柵の向こうも同じく本棚で埋め尽くされている。
今日はもう授業はないし、寮に帰ってもやることはない。
だからといって本を読むのにも飽きたし…
考えていると、いつのまにか連弾が終わっていた。
にー
どこからか猫の鳴き声
も聞こえる。
『(誰か本でも読みに来たのかな?)』
それならこのヒマさは解消できる。
訪問者相手に話せばいいしね。
期待を込めて下を覗くと、見覚えのない金髪の男の子がシリーズものの本棚の前でうろうろしていた。
『(あそこにあったのは…<聖騎士物語>だっけっか)』
「―と、あれ…一冊だけ抜けてる…?」
男の子にしては少しばかり高めの声が聞こえた。
「ああ悪いな。そこ、オレがちょうど借りてたところだ」
きょとんとした男の子が振り返って見たのは、彼より少し背が高い大きな箱を抱えるヤツ。
『ふーん…』
私がつぶやいた声は、下の彼等には聞こえていない。
「…おまえ、この話好きなのか…?」
「え…うん、大好き…」
会話を聞きながら、音を立てないように私は投げ出した本を棚へと戻しはじめた。
「エドガー!? え…もう大好きだよ!!?」
いきなり金髪くんの声のトーンが上がる。
楽しそうだよなぁ。
「いやー、読者に人気があるのも納得っていうか。オレも実は彼が一番好」
金髪くんの声がいきなり止まったのは、短期なのか、箱を持つ片方が舌打ちをしたのが原因。
「悪いがな…おれは、あのエドガーとかいうクズが大嫌いだ…!!」
自分から意見求めて、そこでキレるの!?
本棚に向き合ってクスクス笑う私は、多分…じゃなくて確実に変なひと。
でも彼等の話は、そんなこと気にしなくてもいいくらいに楽しい。
そんなことを思っている間にも、2人の会話は進んでいく。
「何より気にくわないのがその最期。
自らをなげうって主人を守り、大事な奴らの幸せを祈りながら1人死んでいきやがった… そんな奴のどこが―!」
話し方からもわかる嫌気さに、金髪くんが声を上げる。
「…エドガー…死ぬの…?」
『(え、知らなかったの?)』
「?死んだ…だろ?
確かに16巻の半ばあたりで―」
「うわああぁああ!!
それめちゃくちゃネタバレだ―!!」
確かに、読んでない部分を先に言われるのはショックだ。
私なら一気に読むのやめるわ。
「…大体なんだよ、主人を守って死ぬなんてエドガーらしくて立派じゃないか!」
半泣き(泣いてる?)になりながらも弁解する金髪くんに、片方も反論。
「はっ!? あんなのはただの自己満足に過ぎねぇだろ、バーカ!!」
本棚を離れて、柵に腕を組ん
だまま乗せると下の状況が丸わかりだった。
「あーそこの2人」
新しい声が聞こえた。
ずっと柱の陰で本を読んでいたメガネの男の子が口を挟む。
「もう少し静かにしてもらえないかな?」
ごもっとも。
「リーオ!」
背の高い男の子が半ば怒りながら名前を読んだ。
「今ジョゼフィーヌ(登場人物)が大変なとこなんだから」
そういいながらも、犯人がジャッキーだかなんだらつぶやいている。
その子の顔はメガネと長い前髪に隠れていてよくわからない。
多分、静かな子だと思う。
「それに、今のはエリオットが悪いと思うよ」
エリオット、が背の高い―金髪くんじゃないほうの名前。
「相手に意見を求めておきながら、気に入らない答えがきたからといって
自分の考えを押し付けようとしたでしょう」
違うかな? と付け足すリーオに、エリオットは反論できない。
「なら謝るべきだよね、きちんと男らしく」
いいたいことをぐっと堪えるエリオットのよこで、金髪くんが気まずそうに立っている。
『(そろそろ、かな?)』
柵に足をかけて2本の足で立つと、学校指定の靴のヒールのせいでバランスが保ちにくい。
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