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□プロローグ:1Memory
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目を閉じて、1番はじめに見えたのは1人の男の子とチェシャ猫。
「ふむ…」
ぺろん、と自分の手を舐めながらチェシャが投げ飛ばした男の子に向かって近づいた。
「そろそろ遊ぶのにも飽きてきたぞ」
気まぐれ猫の態度に、男の子が苦笑する。
「本当に猫みたいだなぁ」
しかしその笑いに、恐怖心はなさそうだった。
身体を打った痛みはありそうだが、自分がどうなるのかという本能的な恐怖はそこにない。
「チェシャは猫だぞ。今も、昔も」
「へー、そう」
だったら、と言葉を続けながら男の子は起き上がった。
「…。おまえは変な人間だな」
「え…?」
気まぐれを早く終わらそうと、チェシャが再び攻撃をはじめた。
ギリギリのところで男の子もそれをかわす。
「…たしかにここにいるのに」
男の子が壁に寄せられるのがわかった。
それと同時に、チェシャも続きの言葉を言う。
「“どこにもいない”」
それと同時に、私も目を開く。
―ドンッ―
地震のように地面が揺れた。
それで悟ったのか、チェシャの瞳の中に新しい感情が混じる。
「ほどほどにしなさい、チェシャ
?」
「!!」
「なっ…」
片方しかない目を見開くチェシャと、大きな鏡の前で驚愕の声を漏らすオズ=ベザリウス。
突如現れた少女に、そこにいた誰もが目を見開いた。
少女の緋色の長髪が、地面に着いた足よりあとに舞い降り、無垢な白いワンピースが揺れる。
「っチェシャは、おまえを呼んでいないっ!!」
チェシャの攻撃相手がオズから少女へ変わる。
「それ以上、その子達を見くびらないようにしなさい」
ひらりと攻撃をかわしながら、またもや少女は命令口調で言う。
「なにを…」
言いかけてその場から動こうとしたオズに気づいたチェシャが、
大きな手をオズへと振り下ろした。
「!」
鏡からオズを守るように出てきた手によって、
チェシャの攻撃が外れる。
そのまますとん、と跳んで下がった。
「おまえは…!」
「だめだよ? チェシャ」
手が、オズの頭を触る。
「この子を殺しとはいけない。
この子を殺すことで1番傷つくのは誰なのか」
「その頭でよく考えてごらん…?」
うっすら正体が鏡に映る人物が、鏡の中へオズを連れ込もうとする。
「! 待て…」
ピシィッ―
ガラスにヒビが入る音でチェシャが表情を凍らせた意味を、その人物が知っていたのか。
「…そうだ。
君が今気にすべきなのは、
そちらのお客さんのはずだろう…?」
その言葉だけを残して消える。
「…ジャック、」
「あの男…っ」
自分の空間を傷付けられた怒りに、黒猫は鏡の中に消えた。
ふぅ、と小さな吐息が漏れる。
「まったく…大変なことね。でも、」
そのままペたりと手をガラスに付けてみた。
「…でも、今回はいるかしら。
“あの子”を導いてくれるヒカリ、が」
そのまま少女は、静かに目を閉じるとなにかに逆らうこともせずに消えた。