小説集

□ナモナキセカイ〜光の世界〜
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それは始めて聞いたオトだった。
僕より高く、僕より透き通る。
音が僕に流れ混む。この気持ちは一体何?このオトは一体何?
訳が分からない。何がどうなっているのか。何が起こったのか。
「……オト……」
呟いてみる。言葉がうまく出てこない。ぼくから音が出てこない。
答えはあるのだろうか。またないのだろうか。じっと音のでて来たほうを見る。
「音?音が欲しいなら私があげる。私がキミに音をあげる。ここには音がないのか。キミの求める音はなに?私の声?物音?雑音?」
音が溢れだす。僕じゃない者から音溢れだす。一つの音のはずなのに、色々な音が出る。僕には出せない不思議な音。音、おと、オト。
僕もだしたい。僕の音。知らない音が流れ混む。
叫べ僕のオト。届けボクの音。広げるんだ僕の僕だけのセカイに。染み込め僕の世界に。絞りだすんだ。僕の音を。体から、喉から、口から。
「僕の音が…届いた……僕のオトが…広がって…ハ、ハハ…音…これが僕のオト?」
初めてぼくから僕の音が出た。聞いた事のない僕の音。
流れ混むボクのなかに僕の音が。染み渡たる。
「そう、それがキミの音。たったひとつのキミだけの音。さぁ奏でよう、キミの音と私の音。きっと楽しいよ。キミに音が広がれば私も嬉しい。」
あぁ…楽しいんだ…僕は今楽しいんだ。
心に音が広がった。ボクに音が染み込んだ。
セカイに音が広がった。音、それは僕に初めてのセカイをくれた。
音の世界。闇に音がまぎれて、埋め尽くす。何もなかった僕のセカイに新しい世界ができた。
音…それは僕にとってボクが僕になる第一歩。

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