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□『邪笑』
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その手が欲しい、
その腕が欲しい、
その瞳が欲しい、
その眼差しが欲しい、
すべてが、―――欲しい。



『笑顔』



そう願って、どれだけの月日が流れたのだろうか。

目の前には、「いつものように」微笑む彼女の顔が一つ。
彼の顔を、ジッと二つの瞳で見つめていた。
白く月のような微笑は、あまりに静かで。
ゴクリと息を呑む音だけが、こだました。



一体、いつからこんな風に笑うようになったのか。



自分の中に、不安にも似た疑問が浮かぶ。
目の前の彼女は、こんな風に笑いはしなかった。
真昼の太陽のような笑顔で、笑っていた筈だ。
それなのに、いつの間にかこんな静かな笑みしか湛えなくなっていた。



「         」



不意に、呟いた言葉にピクリと彼女の身体が動いた。
正直すぎるその反応に、静かに心の奥で笑う。
目の前の顔が、不安に揺らぐ。
白い月のような顔。
冴え冴えとしていて、けれど美しく。
美しいけれど、どこか儚いその顔が。

あまりにも綺麗で。





―――壊してしまいたかった。










「どうかしたか?」
「何でもない」

問う声に、平静を装った声で答える。
僅かに震えるその声に気づかない振りをして、
彼は、もう一度紫煙を燻らせた。




静かに凍る、笑みを浮かべたまま―――。
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