薄桜鬼*ひと恋めぐり

□繋がらない想い
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時計は午後10時を回っている。


お千ちゃんが原田さんを部屋から連れ出してくれているから、永倉さんは今一人だ。


永倉さんの部屋の前でぐずぐず悩んでいたって仕方ないよね…、もしこんな所誰かに見られたら大変だし…。


意を決してドアをノックした。


ガチャリとドアが開き、私の顔を見た永倉さんは不思議そうな顔をしていた。


『どうしたんだ、こんな遅くに…』


『あの…、ちょっとお話があって……中に入らせてもらってもいいですか?』


震える両手をぎゅっと握りしめた。


『…いいけど…、何かあったのか?』


私は一歩、部屋へと足を踏み入れ…静かにドアを閉めた。


永倉さんは一人で呑んでいたらしくテーブルの上にはビールの缶が何本も置いてある。


『お千ちゃんが左之に話があるとか言って連れ出したもんだからよ、一人で呑んでたんだ』


『…あの…永倉さん…』


一歩、部屋へと入ったもののそこから動けず立ったままでいると永倉さんが心配そうに覗きこんできた。


『…?顔、赤いぞ?熱でもあんのか?』


そう言うと永倉さんはその大きな手を私の額にそっと当てた。


『熱はないみてぇだけど…』


『永倉さんっ!!…私……っ』


瞬間、永倉さんの携帯が鳴りだした。


『誰だ?左之か?………――っ!!』


着信画面を見た永倉さんの表情で、それが彼女だと確信した。


永倉さんは携帯には出ず、それをベッドの上に放り投げた。


『…出なくて良かったんですか?』


『ん?……あぁ、…いいんだ』


放り投げた携帯を見つめる永倉さんの横顔を見ていられなくて私は…


『そんなに彼女の事が忘れられませんかっ!?』


永倉さんの背中にぎゅっと抱きついた。
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