薄桜鬼*ひと恋めぐり
□総務課
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仕事始め。
私は普段より少し早めに出勤し、今日から配属になる総務課の前で大きく深呼吸した。
最初が肝心だよね…
うん!!
意を決して総務課のドアをノックしようとした時――
『君…、もしかして営業課から来た子?』
後ろから声をかけられ思わず振り返った。
するとそこに立っている人は、長めの前髪をわけた隙間から見える瞳で頭の先からつま先までを値踏みするように私を見ていた。
『あ、はいっ!!営業課から配属になりました、今村まみと申しますっ、よろしくお願いします!!』
勢いよく頭を下げて名前を名乗ると、その彼は意地悪な口調で言葉を続けた。
『土方さんの下で働いてた子が来るっていうからどんだけ嫌な子が来るんだろうって思ってたけど、…案外普通じゃない』
『はぁ………?』
『僕は沖田総司。わからない事があったら僕か…、あ、居た居た!!一くーん!!』
沖田さんは、廊下の向こうから歩いてくる男の人に手を振る。
『彼は斎藤一。僕か一くんに何でも聞いてくれたらいいから』
『総司、朝から騒がしいぞ。何事だ?』
沖田さんに‘一くん’と呼ばれた斎藤さんは、とても落ち着いた口調が印象的だ。
『あ、私、営業課から配属になりました、今村まみと申します!!よろしくお願いしますっ』
斎藤さんに頭を下げると、彼は口角をほんの少しだけ持ち上げ静かに笑ってくれた。
総務課には、課長である井上さんと、先ほどの沖田さんと斎藤さんが居た。
営業課ほど人数は多くなく、1日のほとんどを社内で過ごす。
『あぁ、今村くん。君は営業課の新入社員の中でも優秀だと聞いてるよ?急な辞令で悪いんだが頑張って』
井上さんのほんわかとした喋りと笑顔に、いつの間にか緊張の糸はほぐれていった。
今日はデスク周りの整理と自己紹介だけで良い、とのことだった。
私は自分のデスクに、営業課から運んできた荷物を置いてゆく。
そんな私に沖田さんがニコニコしながら話しかけてきた。
『今村ちゃん、営業課では誰と仲が良かったの?』
『えっと…同期では鈴鹿さんとか藤堂さんとか、ですかね…』
『藤堂って、…平助のこと?』
『沖田さん、平助くんと知り合いなんですか?』
『うん。高校の後輩なんだ』
『そうだったんですねぇ…あ、お昼は平助くんたちと食堂で食べることになってるんで良かったら沖田さんも一緒にいかがですか?』
平助くんと知り合いなら悪い人ではないだろうし、早く総務課にも馴染みたい事もあり私は沖田さんを誘うと、彼は快くOKしてくれた。
『一くんも一緒に行くよね?』
『…あぁ、俺は構わぬ』
そうして、お昼を告げるチャイムが鳴り、私たちは食堂へと向かった。