薄桜鬼*ひと恋めぐり

□就業後デートとその理由2
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『あれ?新八?』


艶のある甘い声が永倉さんの名を呼んだ。


永倉さんのことを、下の名前で呼ぶ女の人は初めてだ…
多分、きっと……


勇気をだして盗み見た永倉さんの表情で、この人が永倉さんの彼女なんだと確信した。


『…お前、こんなとこで何やってんだ…?』


永倉さんの声が少しだけ上擦っている。


『今から彼氏と会うんだけど、彼が少し遅れそうってゆうからブラブラしてたの……その子、新八の新しい彼女?』


……え?
永倉さんの彼女じゃ…ないの?…今から“彼氏”と会うって……?


頭の中をぐるぐると巡るハテナマーク。


『この子は同じ課の後輩だ。…彼女じゃねぇよ』


すると彼女の視線が私に向き、私は慌てて頭を下げた。
ゆっくりと顔を上げ、目の前に立つ彼女に目をやる。


高いヒールを履きこなしていて、スタイルは抜群…肩よりもだいぶ長い茶色の髪はふんわりとゆるいパーマがかけられていて、大人の女性が醸し出す色気もある。


…私といえば…、ヒールはまだまだ苦手だから普通のローファーだしスタイルもごく普通…大学時代から伸ばしている髪も今では背中の真ん中くらいまで伸びたけどパーマをかける勇気がなくストレートのまま……もちろん、色気なんて到底ない。


『私と別れてすぐに新しい彼女が居るんじゃ虚しいかなぁなんて思ったんだぁ…ちょっと安心』


『意味わかんねぇよ、お前はもう次の男いるだろーが…ほら、さっさと行けよっ』


しっしっとまるで犬でも追い払うような手つきの永倉さんに、彼女は余裕の笑顔で手を振り去って行った。


そんな彼女の後ろ姿を切なそうに見つめている永倉んの横顔を見て…永倉さんはまだ彼女を想っている、そう思った。


…きっと…今、私が隣に居ることすら、永倉さんは忘れてる。
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