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□For you my…
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「部長、お誕生日おめでとうございマス」

「あぁ、ありがとう」


午前0時ぴったり…と言う訳ではなく、その日の夕方頃に電話はかかってきた。


「プレゼントは今度の試合の時に渡すんで」

「楽しみにしている」

「…………」

「…………」


伝えるべき言葉を伝えた後は、何を話せばいいのかがわからないのは、口下手な二人にとっては常である。
何も会話がないままただ無言を伝え続けていた電話が小さな呟きを拾ったのは、数分間たった後だった。


「………遠いっスね」

「あぁ、遠いな」


ふとしたときに感じる距離の遠さ。
二人が出会ってから、近くにいた時間より遠くに離れている時間の方が随分と長いのは十分にわかっていて。
それにも慣れているはずなのに、無性に寂しくなるときがある。
…どうしても、会いたくなるときがある。


中学生の時は会いたいと思ったときに会えていた。
手を繋いだり、抱きしめ合ったり、キスをしたり―
言葉にしなくても、互いの温もりから気持ちの全て伝わっていた。

でも、今は違う。
二人の間には縮めようのない距離があって、互いの温もりは絶対に感じられない。
言葉にしなければ、気持ちは伝わらない。





「部長………スキ、会いたい」


言葉を口にしたら、蓋をしていた想いが止めどなく溢れてきて、どうしようもなくなった。


「ぶちょ…すき、だいすき…」

「越前。俺も、愛している」

どんなに言葉にしても、相手を想っても、今すぐに会うことは出来ないし、物理的な距離が近づくこともない。

けれども、



「何か、くすぐったいっスね」

「そうだな」



何となく心の中でほんわかと相手の温もりを感じた気がした。



―For you my…



「……今度の試合、楽しみにしてて下さい」

「あぁ」


今は言葉だけだけど、
今度会えたときには全てを君に伝えよう








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