はじめました。
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「まあ 一回落ち着いて」
『どうやって…』
「深呼吸ね」
わたしは深呼吸をしてみた。落ち着かない。夢の一人暮らしをはじめて一週間、わたしの平凡な日常はこの美形のお兄さんチャン・ヒョンスンによって壊された。
「お買い物行こっか」
『え?』
「お買い物」
『お仕事はないんですか?』
「今日と明日はオフ」
ヒョンスンはにっこり微笑むと玄関に向かってスタスタ歩いて行く。そのあとをわたしは歩いた。ヒョンスンは玄関で靴を履くとわたしにも靴を履かせ、手を差し出してきた。
『え?』
「手、つながない?」
『け、結構です』
「そう」
わたし異性と手を繋ぐなんて小学校の時の運動会の行事のとき以来ないんだから!てゆうか手を繋いでいるカップルたちは、手に汗かかないのか?好きな人と手繋ぐんだぜ?わたし手が汗びっしょりになる自信あるんだけど。
しかもこの人と手を繋ぐのだけは嫌。他人だし(まだよく知らない)めっちゃ綺麗な顔してるし!
「今日の夜ご飯なににする?」
『えっ!あ、あの君が好きなもので……』
「君じゃなくてヒョンスン」
『あぁヒョンスンさん』
「ヒョンスンでいいよ。俺はももって呼ぶね」
ヒョンスンはわたしを下から覗くようにして言う。なんだかその行動反則。キュンキュンしてしまう。小学校以来わたしは手を繋いだことがないうえに恋もしてない。素晴らしく経験がない。
『あ、はい……』
「ももちゃんがいい?」
『どちらでも…』
お互い呼び方を決めてるなんてカップルみたい。……カップルみたい!?いやいやわたしはこの人と今日初めて会って…だからそんなことは有り得ないしアイドルだし……。なんだか変な感じ。
近所のスーパーに入るとヒョンスンはパーカーのフードを深く被っていた。アイドルだからか。わたしアイドルの隣にいるのか。
「あ〜らカップルさん。二人で仲良くお買い物?」
試食売り場にいるおばさん。結構仲が良い。おばさんはわたしを見て口をあんぐりと開けた。
「あらまっ!ももちゃんじゃないの!」
『おばさん、こんにちは〜…』
「あらやだっいつの間にかボーイフレンドなんてつくっちゃってやるじゃない!ん?」
おばさんはわざとらしく隣のヒョンスンのフードを突いていた。彼氏じゃない。彼氏ほしいけどこの人彼氏じゃない!
ヒョンスンは被っていたフードをとった。少し髪の毛にクセがついているのを手で直しながら、
「チャン・ヒョンスンです」
とにんまり笑った。おばさんは"あらまあ!ハンサム!"と呟くとわたしの背中をバンバン攻撃してきた。おばさんの力すごく痛い。わたしは苦笑いをしていた。ヒョンスンは優しく微笑み続けている。変な人。
「今日、同棲しはじめたんです」
「あらそうなのっ!?じゃあ今夜は大変そうねっ!」
まさかの下ネタ。
おばさんがそんなこと言うとは思わなかった。ヒョンスンは驚いた顔をしたが慣れたようにまた微笑みだした。わたしは二人を奇妙なものを見るような目で見比べていた。
おばさんってコワイ。
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