頂き物


□犬養さん
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『今注目の若手俳優がゲストで来てくれましたー』とテレビの司会が言った瞬間に幕が開いて一人の青年が入ってきた。その途端女子の悲鳴に近い声がわっと上がって、スタジオが物凄い歓声に包まれる。にこにこと控えめに愛想を振り撒きながらカメラに向かって笑ったところでテレビを切ってやった。ぼすりとベッドに寝転がって、真っ黒な画面のテレビを見詰める。ふとそこで、先日言われたあの人の言葉を思い出した。

『月曜日の八時からの××で俺でるから見とけよ』

得意気な顔で言う南沢さんにああはいはいと、あの時俺は適当に返事を返した。××というのはバラエティ番組で、あまりテレビを見ない俺でも知ってるぐらい有名なやつだ。そんなのに出れるなんて、南沢さん凄いなあって思う。

(今人気の若手俳優、か)

うん、心から凄いって思う。思うけど南沢さんが有名になるのに比例して寂しさが大きくなる。だって俺達付き合ってるのに、南沢さんと全然会えないし。それに前に連れていってもらったデートだって、直ぐに女の子に囲まれるから全然面白くなかった。南沢さんも南沢さんで、ファンを大切に精神から爽やかスマイルを振り撒いて更にファンを増やすし。恋人の俺からしたら全っ然面白くない。確かあの時はむかついたから女の子の波に乗って先に帰ったっけ。(あの後携帯に死ぬほど着信入ってたからすっげえビビった)そういえばまた新しいドラマに出るって言ってた。多分これからもっと忙しくなるんだろう。
なんだか南沢さんがどんどん遠くなっていく気がする。気がする、じゃなくて本当に遠くなっているんだろうけど。

(…南沢さん)

そっと目蓋を閉じて真っ暗な世界に入った。そこに浮かぶ南沢さんは、俺に背を向けて向こうの明るいほうに歩いていく。置いていかないでくださいって言って必死に手を伸ばしたけれど、するりと風のようにすり抜けて行ってしまう。そして南沢さんが光の中に消えた瞬間、目が開いてさっきとは違う白が目に入ってくる。それは見慣れた俺の部屋の天井だった。はっとしてぱちぱちと数回瞬きをすると、目尻からころりと涙が零れ落ちた。「…?」そっと手をのばして頬に触れてみる。そこは涙でぐっしょりと濡れていて、枕も涙で冷たく湿っていた。

「…おれ泣いて…?」
「あ、起きた」
「!みなみさわさん!?」
「よお」

俺は慌てて体を起こした。隣に座って俺を見下ろすのは、さっきテレビに映っていた南沢さんだった。なんでいるんですか?とか仕事は?とか聞きたいことが多すぎて「え、」やら「あ?」やら言っていたら、笑われてしまった。

「今日はもう終わったから。倉間に会いたくなったから来たんだけど、迷惑だったか?」
「や、別にそんなんじゃないですよ。ただちょっと驚いただけです」

南沢さんはどうやら俺に会いたくなって来たらしい。(なんだかその笑みが嘘っぽいけど)だからって別に俺も会いたかったですとわざわざ言う必要もなかったし、会いたいと思わなかったから言わなかった。しかしこの人はその事が不満らしく眉間にシワを寄せる。南沢さんの右手ではいつの間に取ったのか、リモコンが弄ばれていた。

「なに、お前は俺に会いたくなかったのかよ。…それにテレビも見ろって言ったじゃん」
「…ちゃんと見ましたって」
「嘘つけ。俺が来たときお前寝てたぞ」
「………」

一体いつからいたんだよ。枕元の携帯を開けば、9:10を表示していた。あれが八時から始まったから、大胆一時間ぐらい寝たことになる。ってことは泣いてたのバレてるかも…。

「まあテレビはいいや。それより…お前本当は俺に会いたかったんだろ?」
「…は、別に」
「倉間寝てる時俺の名前呼びながら泣いてたぜ。南沢さん、南沢さんって」

南沢さんは右手のリモコンをそっと机の上に置いて、此方をじっと見据えた。全部見透かされてしまいそうな強い視線にどきりとした。なんだか本当の事を言えって言われているみたいだ。俺は仕方なく口を開いた。

「…俺は、」
「……」
「俺は南沢さんが有名になるのはすごく嬉しいんですけど…寂しいんです。南沢さんがどこか遠くに行ったみたいで、駄目なんです」

今まで溜めてきた事が一気に出てくる。言葉と共にとまっていた涙も一緒になって出てきた。

「折角デートしてても全然楽しくないし、しかも兄弟に間違われるし、あんたがテレビに出て笑ってるのも見たくないし、なのにこうしてる間にも女子のファンは増えていくし、ドラマのキスだってやだし…っ」
「……」
「…我が儘言ってごめんなさい」

ああ俺本当我が儘だ。デート楽しくないとか、キスシーンが嫌だとか、全部仕方ないことなのに。どうしよう。恐くて顔があげられない。…呆れられただろうか。きっと次降ってくるのは重い溜め息なんだと思った。だけど。

「…かわいい」

降ってきたのはかわいいというよくわからない言葉がひとつ、さらに体は暖かい腕で抱き締められている。訳がわからなくて出てきたのはへ?となんとも間抜けな声。そんな俺の頭を南沢さんは、あやすようにぽんぽんと撫でた。

「妬いてる倉間かわいい」
「…妬いてない」
「はいはい、かわいい」

肩口に顔を埋めると南沢さんの匂いが鼻腔を擽った。触れたところから伝わってくる南沢さんの体温がひどく心地いい。
きっとこれから更に出演するドラマが増えて、その中で抱き合うシーンとかあるんだろうけど、やっぱりこの温度は俺だけが知ってればいいのになって思った。








/心の漆喰をはがした裏側に
title:浮世フレィズ

奏朝さんへ『俳優沢と高校生倉間で、モテる南沢さんにイラつく倉間』素敵リクエストありがとうございました。なんか高校生要素全く無くてすみません…。こんなのでよかったら貰ってやってください^^

(奏朝さんのみフリー)

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