導きの旅路

□02.心を覆うは消えない靄
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チャンスは思ったより早くきた。


三橋と田島が阿部と花井の所へ飛んで行った。
あいつらが付き合っている事を知ったのは田島があっさりとカミングアウトしてしまったからだ。
俺自身は別になんとも思わなかったがそれは簡単に言いふらしていいものではない。
だから田島には誰にも言わないよう釘を刺した事は記憶に新しい。


まぁその事はともかく、2組のカップルと一緒にいるなんて冗談じゃない。
おそらく最近俺を避けている水谷も三橋と田島が行った時点で俺もいると思って一緒には行かないだろうしな。


だからって部活前に2人だけで話す機会があるとは思っていなかった。
前を歩く水谷はどこかボーっとしているようだった。



「水谷」
「……っ!?」



名前を呼ぶと全く気付いてなかったのか、それとも別の理由か。
水谷は一瞬ビクッと体を跳ねさせる。
でも振り返った時の水谷はいつも通りヘラヘラと緩く笑っていた。
だけど俺はこの水谷の表情に違和感を感じていた。
前はもっと自然だった筈の笑顔にどこか無理矢理なものを感じるようになった。



だけど俺はそれに気付かないふりをして他愛もない会話をする。
それさえも久しぶりに感じてしまう。
お互い笑って、でもそこには間違いなくどこか壁があった。


水谷の作り笑いを見る度にもやもやしたものを感じる。



本当は今すぐに問いただしたかった。
でも、冷静に考えるともうすぐ部活が始まる。
今まで何も話そうとしなかった水谷だ。
そう簡単には話さないだろう。
聞き出す事も出来ず曖昧なまま部活に行くはめになったら練習に集中出来なくなってしまうかもしれない。
しかも水谷はなんか寝不足っぽいしな。
やっぱり部活の後を捕まえて聞き出すか……。


するとグラウンドの入り口が見えてきた。
ふと水谷の方を見ると水谷はホッとしたように見えた。
それを見てますますもやもやが広がる。



んだよ、そんなに俺といるのは嫌なのかよ。



だけどその時、水谷の表情の中に他にも苦しそうなものも見えた気がした。
上手く言えないが他にもどこかツラそうにも見えて……。


水谷が振り返ってこっちを見た時も俺はただじっと水谷を見ていた。
俺の様子に気付いたのかいつもの笑顔は引っ込んでいた。
何も言わず見ているだけの俺を水谷は戸惑ったように見ている。


あの水谷の表情を見た瞬間、これから部活だとか後にしようとか考えてられなかった。
やっぱり後回しなんて俺らしくねぇ。
言いたい事はその場で言うし聞きたい事はその場で聞く。





「水谷」
「な、に……?」





さっきと同じように……。
けどそこに込めた意味は全く違う。


返事をした水谷の声には明らかな戸惑いが含まれていた。
聞かないでほしいと目が言っているようにも感じられた。
そこに触れないでほしいと必死に訴えてる気がした……。


けどこれ以上は我慢出来ねぇ。
話してもらう……。
お前が溜めているものを、全部。







「水谷。お前、俺の事避けてるだろ」





 
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