★リミの部屋★

□眞魔国でバレンタイン?
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《もうすぐバレンタイン!バレンタインとは恋する乙女が恋焦がれる愛しき者に愛情込めたチョコを贈り、愛を伝えるという素晴らしい儀式である》


「…なーんてな。俺チョコなんて貰った事ねーしィー」
「今年は貰えるかもしれませんよ?ほら、ユーリはどこから見ても美少年なんですから」
「美少年はヴォルフだろ」
それにアンタに言われるとどんな言葉も今は厭味にしか聞こえないよ、と言いながら背伸びをし、眞魔国当代魔王は溜息を漏らした。

…だがそんな彼の知らない場所では既に、秘密の花園らしからぬ、王を廻る水面下のせめぎ合いが繰り広げられているのだった。



「いったぁーい!指切ったよグウェン、血がでてきた!いたいっ!……グレタまだ死にたくないよぉ」
「人はそう簡単に死なない。慌てるなグレタ、絆創膏を貼れば治る傷だ」
グウェンダルはグレタの頭を撫で、手にした絆創膏を丁寧に貼った。
「そうだよね?ヴォルフだってまだ82歳だもんね?グレタ10歳だもんー」
「そうだ。だから大丈夫と言ったろう」
「うん!グウェンありがとうー」
グレタの可愛いらしい笑みを間近で見てしまい、フォンヴォルテール卿は硬直してしまった。
「ねーぇヨザック、なんだかあたくしの白チョコが黒くなっているのだけど……もう完成したのかしら!」
「ツェリ様、それは単に焦げてるって言うんです」

新米魔王がそんな会話をしてるとも知らずに、血盟城の厨房では異様な光景が繰り広げられていた

一人であっちもこっちも指導して回っているのは冷徹無比の皮肉屋グウェンダルで、参加者は皆可愛いらしいエプロンに身を包み、意気揚々と何かに向けて必死に取り掛かっている。
だが、その光景ははたから見れば『若奥様の料理教室』と言った所だが、実際はかなり酷かった。
そこには眼鏡を掛けた講師ではなく、絶対無敵の重低音・フォンヴォルテール卿がいる。
そして恐ろしいことに、彼は割烹着姿で三角巾を装着済み。
その格好で睨まれては、たとえ「お残しは許しまへんでぇ!」的な事を言われ、まずい料理を出されても、余裕で喉を通ってしまうだろう。
一方セクシーエプロンに身を包んだツェリ様や、魔王陛下のご息女ことグレタ。
それに女装癖のヨザックや城に仕える全ての女性に囲まれながら、彼は『バレンタインチョコ教室』を開いていた。

…全ては父にチョコを渡したいと願う姪っ子の為に。

「えへへ、ユーリ喜ぶかなぁ?」
生クリームを泡立てながら、グレタが笑い声を押さえて訊く。
彼は胸を張って「当たり前だ!」と言いたかったが、『冷徹無比の皮肉屋グウェンダル』のレッテルが、『伯父馬鹿炸裂の便利屋グウェンダル』になってしまう事を恐れ、ガッツポーズでごまかした。
そんな小さな幸せを噛み締めていた時、厨房の扉が開かれ、靴音を揃えて末弟のヴォルフラムが入って来る。
彼は中の悲惨な光景に目も向けず、自分の用件のみを淡々と伝えようとした。…が、

「失礼する。兄上がここにおられると訊いたのだが、何故このような場所……にィ!?」

全てを見てしまったフォンビーレフェルト卿は即座に瞳を真っ白にした。
扉を開けた右手が宙で止まったままだ。
「あぁらヴォルフ、ねえあなたは陛下にチョコを準備したのかしら?あたくし達は今作っていたのよ。ね、グウェン」
「あ…兄上が……チョコ!?」
末弟の隠しきれないショックを汲むこともなく、母親は長男の肩を抱く。
しかし三男坊は有り得ないという表情をしながら、グウェンダルにこう言った。
「兄上……本当に兄上ですか?」
「私は私だ。他に誰がいる」
いつもの威厳ある不機嫌顔で答える。…しかし、割烹着姿だ。
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