★リミの部屋★

□グウェンダルと愉快な仲間達♪
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前魔王の長男、フォンヴォルテール卿グウェンダルは実に完璧な魔族である。

すらりとした長身の身体、相手を奮い立たせる威厳ある眼差し。そして誰にも真似出来ない腰に来る重低音。
眞魔国と魔族を誰よりも誇りに想いながら愛し、国の為ならば新米魔王がやるべき政や、取り乱した王佐の雑務をも率先して取り組み、日々過労死と闘う心意気を交わせ持っている完璧な魔族である。
…だがしかし、そんな彼の悪夢の一日が始まるとは、彼自身もまだ気付いていなかった。




この日もグウェンダルへ、何の変わりもなく自然と回ってきた執務を熟す為、血盟城に呼び出された彼は珍しく悩んでいた。自らの直轄地、ヴォルテール城から隠し持って来た籠の中には…

「いかん、また作り過ぎてしまった。そろそろこの子達も里子に出さねばならない…」

…可愛いあみぐるみが、これでもか!と言わんばかりに大量に溢れていた。
そう、フォンヴォルテール卿は強面な外見とは裏腹に、無類の可愛いもの好きで編み物が趣味なのだ。
本人は「精神統一」と偽って編み物をしているが、実際の所は完璧な「趣味」の一関である。
そしてバレていないと思っているが、実際の所はモロバレだ。城中の誰もが知っている恐ろしい事実。『眞魔国、本当にあった意外な一面』という書籍にも載る程に。
しかしその指からこんな繊細な物が作られるのだから、芸術とは実に素晴らしく奥深いものだ。

グウェンダルは姪っ子であるグレタに何体か渡そうと思い、籠から特に良く出来た子達を厳選していた。いつになく真剣な表情。
よし、このねこちゃん達を渡してやろう!と、明らかに目付きの悪いブタにしか見えない物と、哺乳類系のあみぐるみを高い高ーいのポーズで見上げていた時だ。思い扉がおもぐろに開かれる。

「失礼します。兄上、次の遠乗りの件でお話が………失礼しました!」

「待て、入れ」

「…はい」

礼儀正しく執務室にやって来たのは、末弟のフォンビーレフェルト卿ヴォルフラムだ。
兄弟の中で唯一母親の外見を継ぎ、直情型な性格とプライドの高さから「わがままプー」と呼ばれている。絶世の美少年なのに、既に王の婚約者で未婚にも関わらず娘持ちだ。…既にと言っても実年齢は82歳だが。
だがグウェンダルはその瞬間を見られても、「今度はお前達親子にお揃いでうさちゃんの被り物でも作ってあげようかな」と思いながら、天使のような容貌の性格悪魔に見取れていた。
彼はきっと自分にないものに憧れを抱くタイプだろう。そして、見た目に騙されて失敗するタイプだ。

しかしヴォルフラムとしては、「間が悪かった…今すぐ引き返したい。ノックすればよかった!」などと後悔の言葉を浮かび上げ、ノックしなかった自分を責めた。
しかしグウェンダルは相変わらずの不機嫌顔で、こう言う。
「ちょうどよかった。これをグレタに渡してくれ」

「え」

あの兄上、ぼくは遠乗りの件で伺ったのですが………ああ。
末弟の落胆を他所に、お兄ちゃんはあみぐるみを末っ子に手渡す。
仕方なく受け取ったヴォルフラムは、とりあえず感想を言わねばならないと焦りだした。
「これはまた奇怪……い、いえ…か、可愛い魚類ですね…こちらは豚ですか」
見事な棒読みで美少年空回りだ。その言葉に眉を顰め、長兄は呟く。
「それはバンドウエイジくんだ。それに、こっちはねこちゃんだ!」
「…ねこちゃん…」
そんな顔で猫だと豪語されてもと思いつつ、ヴォルフラムは思考回路を広げた。
バンドウエイジ。…何だそれは、男か?そういえばユーリがよく寝言で言っているが…あの浮気者めっ!
…と三男坊は憤慨し、長兄譲りの眉を顰めてしまった。こうして『マイド イン グウェンダル~血盟城代行店~』に一足早く足を運んだのはヴォルフラムとなった。ちなみに気になる本店は、ヴォルテール城のグウェンダルの私室である。



何はともあれ里子に出せたので彼は満足していた。よもやグレタが駆け足でやって来るのも時間の問題か…と不覚にも自分に回された仕事を忘れ、作りかけのクマハチに夢中になっていた時だった。またも扉が開かれる。
「なあギュンター、今グレタとかくれんぼしててグレタが鬼なんだよね。ちゃんと見つけられるかな〜……って、グウェンダル!?」
軽快な足取りで執務室へ入って来た本日の恐い人知らずさんは、城主にして魔王のユーリ本人と次弟のコンラッドだった。
グウェンダルは即座に、お前がやるべき仕事のせいで自分が呼び出されているのに、お前は何を暢気にかくれんぼ中か…と言いたげだ。
しかし、彼自身も現在編み物に没頭中だったので結局何も言えない。心の中で呟いて終わった。
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