Lollipop candy

□ふたり
2ページ/2ページ

Side 嶺二





 温かい膝の上。眠っていたのは、ほんの少しだけ。目こそとうに覚めてはいたのだが、

(せっかくのランランの膝枕…まだもうちょっとこうしてたいし)

 実はもう起きているなどと蘭丸に知れたら、さっさと降りろとどやされてしまう。今暫くこの至福の時を堪能するために、嶺二は所謂『狸寝入り』に興じていた。
 とはいえ、さすがに鼻を掴まれてしまった時には驚かずにいられなかったが。

(でもそういえばランラン大人しいな…さっきまでは何かブツブツ言ってたのに)

 ため息をついたり唸ったりと、何やら落ち着きのなかった蘭丸が、いつの間にか静かになっていた。異変を感じ、そっと薄目を開けてみる。

「あ、寝てる……」

 あろうことか、無防備にも、彼は眠っていた。
 おそらく膝を占拠されたまま手持ち無沙汰な時間を過ごすことに飽き、つい微睡んでしまったのだろう。
 邪魔ならば嶺二の頭をどこへなりとも退けることは可能であっただろうに。彼がそうしなかったことが、嶺二をこのうえなく喜ばせた。

「ふふっ、可愛い…」

 長い睫毛、白い頬、瑞々しい果実のような唇。膝枕から起き上がり、嶺二はそんな愛らしい寝顔を見つめる。思わず手を伸ばして触れそうになったが、起こしてしまうのは勿体無い気がして思い止まる。

(君は今何を考えてる?どんな夢を見てるのかな?…ボクは、そこにいる?)

 寝ても覚めても、彼の傍らにいたい。
 それは随分と前から嶺二が患っていた、厄介な病のなせる願いだった。

――彼が愛しくて、たまらない。

 何故だろうかと、自分でも不思議に思う。どうしてこんなにも彼に惹かれてしまうのか。
 初めて会った瞬間から、少しずつ心を奪われて。今となってはもうすっかり彼の虜。どれだけ足蹴にされようと、彼に恋い焦がれる。彼を追い求める。

(まぁそんな甲斐あって最近は、ちょっとだけ懐いてくれてる気がしなくもないけど…)

 握手からハグへ、膝枕へ。僅かずつではあるが、嶺二と蘭丸との距離は確かに縮まり始めていた。そして身体の触れ合いが増えると共に、心の距離も近付いたと思う。

(キス、したら…怒るかな?)

 いっそこのまま、彼の何もかもを奪ってしまいたい。時折、そんな乱暴な衝動に駆られる。
 きっと少し前の嶺二なら、その声に従っていただろう。欲しいものは力づくでも手に入れた。
 けれど今は、それができない。
 踏み出すことに臆病になってしまった。ある種の傲慢さに身を任せることが、怖くなっていた。

(大事にしたいって、思ったんだ)

 穏やかに上下する蘭丸の胸へ、嶺二は自分の手のひらを置いた。空いた手は滑らかな頬へ添えて、唇を寄せる――――しかし二つのそれが重なりきる前に、嶺二は動きをぴたりと止めた。

「はぁ…ボクって……」

 男として、これはいかがなものか。惚れた相手が目の前で眠っているというのに、キス一つできないなんて。
 意気地無し、と自分を卑下してみる、けれど。

(だって、初めてなんだよ。こんな気持ちは)

 決して消えることのない強い憧憬も、大切にしたいと願う切ない渇望も。










(ランラン、起きてないかな?)
(クソっ、バカ嶺二が……)
(キス、したかったな…)
(ちくしょう…完全に起きるタイミング逃しちまった……)










 不器用な二人が結ばれるのは、もう少し先の話。










Fin.










キリリク、
ほのぼの甘めの嶺→→(←)蘭でした。
一応両想いだけどまだくっついていないふたり、です。
両片想いってやつですね。
それは良いのですがなんというかもう…
エロなしって難しいとつくづく思いました←
だめ人間でごめんなさい…

こんな感じでよかったのかな…?
最後に
咲也ちゃん、リクエストありがとうございました!


[2012/09/01]



前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ