Lollipop candy

□全開ダーリン
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「だーめ。目瞑っててください」
「……?」

 しかたなく目を閉じたままにしておく。大人しく従えば、頭上で那月がふふ、と笑った。

「翔ちゃん……そうしてると、まるでお姫様みたいです」
「……はぁ?!」
 
 確かに服装だけならば、おとぎ話に登場する姫に見えなくもないという自覚はあった。しかし中身はれっきとした男であるということを除いても、大きな問題が一つある。

「手縛られたお姫様がどこにいるんだよ……」

 先程から翔の両手首は、那月のネクタイに縛られたままなのだ。やれやれとため息をつく。

「那月、これ外し……」
「ねぇ翔ちゃん、眠り姫って知ってます?魔女の呪いで百年の眠りについたお姫様が、王子様のキスで目覚める話」
「いや、知ってるけど……お前、俺の話聞けよ」

 わざとなのかそうでないのか、拘束された手首の話題は見事に無視されてしまう。
 痛みこそないものの何となく居心地が悪かったので外してほしかったのだが、そんな翔の願いは那月には届かない。
 まぁいいか、と諦めて再び目を瞑る。ロマンチック趣味の那月に付き合って、『眠り姫』を実演してやったのだ。

「あぁ…僕の可愛いお姫様。どうか目を覚ましてください」

 うっとりと呟くと、那月は再び口づけてくる。しかし姫君を目覚めさせる王子のキスは、一度触れただけで離れていった。
 かわりにその唇は翔の体を這う。
 首筋を擽り鎖骨を撫でると、胸へと下りてきた。薄い胸板を舌でなぞり、その先に待っていた小さな粒を口に含む。

「っあ……!!」

 かり、と歯を立てられて、翔の体が跳ねた。更に柔らかな唇に強く吸い上げられると、とても黙ってはいられない。
 布越しとはいえ、敏感な粒には刺激的すぎる愛撫だった。逃れようと身動けば、腰骨を強く掴まれより強く押さえこまれてしまう。

「翔ちゃんのここ……もうこんなに尖ってる。可愛いです」
「う、るさい……っ」

 少し触れられただけで、そこが固く凝ってしまったことは翔にもわかっていた。自分の体だ、気付きたくなくとも気付いてしまう。だからこそ情けない気分になる。悔しくて、唇を噛む。
 しかしそうした強がりは、ものの数秒しか保つことができなかった。

「うぁっ……!」

 腰を押さえていた那月の手が、スカートへと伸ばされたのだ。
 那月はピンク色のそれを大きく捲り上げ、翔にあられもない格好をさせる。スカートと同じ色をした女物の下着や、先程靴下を脱がされた素足が那月の目に晒される形になった。

「すっごくいい眺めですよ、お姫様。可愛くて、はしたなくて……興奮します」
「お前……!爽やかな顔で変態宣言してんじゃ……っあっ」

 些か変質的な那月の発言に翔は怒りを露にするが、足の甲にくちづけられその語尾は弱々しく消える。まるで王子が姫君にしてみせるようなキスだった。この場合手ではなく足、というのが問題だが。

「…ふ、……っ…」

 調子に乗るな。いっそその綺麗な顔を蹴り上げてやろうかと思うのに、足にうまく力が入らない。その間に那月の唇は爪先へと移動し、並んだ五指をしゃぶり始める。指の一本一本へねっとりと舌を絡め、時折甘く噛み付いてみせた。それはますます翔から抵抗する力を奪っていく。
 両の足指を丁寧すぎるほどに愛でると、那月は踝をぺろりと舐めた。そこからふくらはぎへと舌を滑らせていく。

「やっ…それ以上は……っ」

 那月の唇が膝を過ぎた瞬間、反射的に翔は脚を閉じてしまった。言葉の通り、そこから先に触れられるのがどうしても怖かったのだ。はっきりとした理由はわからない。おそらくはより局部へと近づかれることに対する抵抗なのだろうが、その結果脚の間に那月を挟み込んでしまう。

「翔ちゃん、なかなか大胆ですね」

 那月が目を輝かせる。

「ち、ちげーよ!俺はただ……」
「翔ちゃんの太もも……柔らかい。このままずーっと挟まれていたいです」
「バカっ…」
「あぁ、でも…それじゃあ翔ちゃんのこと気持ち良くしてあげられないね。どうしよう……」
「わ、わかったよ…脚、開けばいいんだろっ……!」

 正直躊躇いはあったが、何やら嬉しげな様子の那月を挟んだままもどうかと思ったので渋々脚を広げる。すると那月は少し名残惜しそうに大腿へ頬擦りをし、キスを降らせる。

「っあぁ……やっぱ、やだっ……」

 内腿へと落とされる口づけは、確かに気持ちが良かった。しかし快感にはあと一歩何かが足りない、どうにももどかしくて苦しい。

(わざと……なのか…?)

 那月の意図はわからない。ただいずれにせよ、優しくて意地の悪い愛撫に焦れていることだけは確かだ。もう身体はこんなにも高ぶっているのに――しかし未だ翔の中に残る理性とプライドが、素直に甘えるという選択肢に進ませてくれない。

「やだって、那月…もうっ……」

 違う場所を触ってほしい、という一言が言えずに、ただひたすら嫌だと訴えることしかできない。
 意志疎通が足りないのか、それとも翔の悶える様子を愉しんでいるのか、那月は未だ脚ばかりを攻めていた。既に下着を持ち上げるほど膨らんでいた局部には触れず、際どい場所ばかりを掠めていく。

「那月……っ」

 火照る身体をもて余す翔の唇から、悩ましげな吐息と共に那月の名前が零れる。無意識のうちに、しかし何度もその名前は空気を震わせた。

「翔ちゃん……」

 応えるように呼び返し、那月がようやく顔を上げる。そして先走りに濡れた下着と、真っ赤に染まった翔の頬を見て目を丸くする。

「…ごめんね。苦しかった?翔ちゃんの太ももが可愛いかったのでつい……」

 自分がどんな仕打ちをしたのか、今初めて気が付いたという顔だった。

(これだから天然は……!!)

 ただ好きなだけ、愛したいだけ。そこには悪意も打算もないものだから、怒るに怒れない。翔は黙って頷いた。

「じゃあ次は、こっち、触りますね」
「いちいち…言わなくていいっ……!」

 余計な説明を挟みながらも、ようやく那月は桃色の下着へ手を掛けた。
 前戯すらまだだというのに、それは既に溢れる蜜液で湿っている。

「わぁ…もうぐしょぐしょ。ピンク色に染みができてますよー。いやらしいお姫様ですね」

 那月が身も蓋もない感想を述べながらその布を引き下ろす。ぬちゃりと嫌な音が響くと同時に、抑制を失った昂りが頭を擡げる。
 けれど外気に触れたのはほんの束の間、それは直ぐに那月の手のひらに包まれた。

「あぁっ……んっ…」

 固く芯を持った肉棒をゆるゆると揉まれ、無意識のうちに腰が揺れる。待ちかねていた刺激に目が眩む。
 焦らされたせいなのか、心なしかそこは普段より敏感になっているようだった。じゅくじゅくと溢れ続ける白濁が、那月の手を汚す。

「ん…んぁっ、はぁ、っ……」
「翔ちゃん、気持ちいい……?」
「う、ん……、いい…っ…から…――と……」
「…え?」
「もっと……那月、もっとして……」

 恥ずかしい、情けない――理性という障壁が崩れ、本能に敗北を喫した瞬間だった。快感で思考がぼやけている。翔は自分が何を言ったか気付かないままに、あられもない声を上げた。

「翔ちゃんは……本当に可愛いです」

 腰をくねらせてもっととねだる翔に那月は苦笑し、いっそう激しくその性器を扱いた。一方で、恋人の痴態ですっかり目を覚まされた自分のものも、ズボンの中から解放する。
 カチャリ、とベルトを外す金属音を耳にすれば、翔はぴくりと身体を震わせた。

「那月……?」
「翔ちゃんを見ていたら、僕のもほら…こんなになってしまいました。だから一緒にしましょう」
「…いっしょ、に?」
「そう。きっと今よりもっと気持ちよくなるよ」

 那月は下着から取り出した性器を翔のそれに重ね、一纏めに握る。限界まで膨れ、ぬるつく上反りはどちらも燃えるように熱い。

「ぁっ……那月の、がっ……」
「…っ、とっても、気持ちいいですよ。翔ちゃんの…熱くて……」
「あぁっ……」

 お互い、腰を擦り付け合いながら快感を貪り、絶頂を求めた。
 次第に感覚は追い詰められていき、熱を放つことしか考えられなくなる瞬間が訪れる。

「あぁっ…あぅっ……」
「……は、ぁっ…」

 先に曝ぜたのは翔だった。噴き上げる白濁がその手にかかった瞬間、那月も溜まった欲を吐き出す。
 荒い息をつきながら、二人はどちらからともなく視線を絡め、キスをした。して翔は再び、甘く蕩けるような眼差しで那月を見つめる。

「まだ…終わりじゃない、よな……?」
「当然ですっ!」
「良かった……」

 翔は口元を綻ばせ、花が開くような笑顔を見せた。
 最初の抵抗はどこへやら。一度達した今は多少の冷静さを取り戻していたが、かわりに今度は何もかもどうでもよくなっていたのだ。楽屋だろうが、女装だろうが――那月が喜ぶならそれでいい。良い具合に思考を放棄した翔は、それまで制御されていた気持ちをここぞとばかりに解き放つ。

「なぁ…那月」
「なぁに?」
「今日はさ、その…慣らさなくていいから」

 膝を立て、誘うようにゆっくりと脚を開く。

「多分、痛くねぇし……早く、お前のが…欲しいんだ」
「……!!」

 最強の殺し文句で、熱を失った那月の昂りは一気に復活した。

(あ……那月が…)

 再び反り返る楔、そして優しげな瞳に滲んだ牡の色を見つめ翔はどきりとする。しかしそれは期待に他ならず――繋がるべく腰を持ち上げられた瞬間、胸を弾ませずにはいられなかった。

「翔ちゃん、翔ちゃん……っ」
「ふぁっ……、ぁっ、熱い……ぃっ」

 狭い窄まりへ、那月の性器が宛がわれる。受け入れ慣れているそこは、濡れた先端が触れるとぴくぴくと震えた。ぐりぐりと押し付けられれば、多少の抵抗はあるものの、大きなそれを呑み込んでいく。

「いぁっ、や……あぅっ…」
「全部入ったよ…わかる?」
「うぅ、っ…なか、那月のが……」
「うん…ほら、ちゃんと、繋がってるよ」

 確かめるように軽く那月が腰を揺すれば、埋め込まれたものが擦れて快感をもたらす。結合の実感も相まって気持ち良く、唇からは甘ったるい嬌声が零れ出た。
 中の具合が良いことを確認すると、那月は本格的な律動を始める。
 一度動き出したらもう止まってはいられないとでも言いたげに、荒々しく腰を叩きつけてきた。彼の中に眠る激しい性が翔を啼かせ、悦ばせる。ただ突き上げる合間に何度も名前を呼ぶ声はやはり優しかった。

「翔、ちゃん……っ」
「っあ、那月ぃ…、は……ぁっ、」

 浅く短い吐息。肉と肉がぶつかり合う音、注がれた精液が混ざる水音。そして普段ならばあり得ない衣擦れが、二人きりの楽屋で淫らに響く。

(あ、これ……)

 汗やら何やらで汚れ、皺だらけになったスカートが目の端に映る。あぁ、自分は女の服を着せられていたのだと、改めて思い出し何だか笑いたくなった。
 嫌だと駄々を捏ねていたくせに、こんな恰好で抱かれて悦んでいる自分も、そんな自分を可愛いと言って憚らない那月も――何と滑稽なのだろうかと。
 相変わらず激しい律動に腰を軋まされながら、翔はこの浅ましくて可笑しくて、けれど何より愛しい時間を堪能した。




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