Lollipop candy

□melt
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melt



太陽のように明るい真っ赤な髪と瞳が特徴的な青年が、カップに綺麗に収まっている赤色のアイスをそっとスプーンで掬って口に運ぶ。大きな口を開けて美味しそうにアイスを頬張る様子は、とても可愛らしい。
アイスが喉を通ったあと、爽やかな笑顔を浮かべた彼は、スプーンでもう一度アイスを掬うと、それを真っ直ぐこちらに差し出した。

『甘酸っぱい初恋をきみに』



夜の闇のように美しい藍色の髪と瞳が特徴的な青年が、先程の青年と同じようにカップの中の紫色のアイスをスプーンで掬い、それを口に運ぶ。たったそれだけのことなのに、彼からは隠しきれない色気が漂う。
口に運んだアイスを食べ終え、綺麗な微笑みを浮かべた彼は、またスプーンでアイスを掬うと、先程の青年のように、それを真っ直ぐこちらに差し出した。

『濃厚な大人の恋をあなたに』



それから二人はアイスのカップを顔の近くで持ちながら、背中をぴったりと合わせて立つ。そして、ほぼ同時に持っていたカップを唇に近付け、触れるだけのキスをする。ゆっくりカップを唇から離すと、不敵そうに微笑んだ。

『『さあ、どっちを選ぶ?』』









「ねえ、トキヤ。どうしても駄目……?」
「駄目です」
「えー、ちょっとくらい、いいじゃん」
「駄目なものは駄目です」
「もう、トキヤのわからず屋!俺は一緒にアイス食べたいだけなのに!」

W1をイメージしたアイスのCM撮影から数日。

俺たちは企業の方から、二つのカップアイスをもらった。
一つは俺をイメージしたハスカップのアイス。
もう一つはトキヤをイメージした紫芋のアイスだ。
カップにも俺たちのイラストが描かれており、イメージカラーや性格なんかも参考にしてフレーバーを決めてくれているらしく、すごく完成度が高い気がする。

勿論撮影のときに食べたから、美味しいってことは知っているんだけど、食べたのは自分の味だけだし、何よりも撮影なんだからゆっくり味わえる余裕はない。
だからこそ、トキヤが帰ってきてから一緒に食べようと思って待っていたのに、トキヤは頑なに食べようとはしてくれず、ずっとソファの上でドラマの台本を読んでいる。どうせトキヤは、カロリーのことを気にして食べようとしないだけだ。そういうプロ意識高いところは、学生時代から尊敬していたけど、やっぱりおもしろくない。

「わからず屋で結構です。いま何時だと思っているんですか。絶対に嫌です」

トキヤは、台本から視線を外すと、俺を睨みながら早口で言い放つ。

ほら、やっぱり。ちょっとくらい食べたって太るわけないのに、ほんと強情なんだから。

「……わかった。じゃあアイス全部食べちゃっていい?」

こうなったトキヤに何を言っても無駄なことくらいこれまでの経験でわかっていた俺は、一応トキヤに確認を取ることする。まあ、答えは聞かなくてもわかるんだけど。
本音をいえば、食べさせ合いっことかしたかった。だけど、トキヤが嫌ならしょうがない。そもそもトキヤが素直にアイスを俺に食べさせてくれるところも、俺がトキヤに差し出すアイスを食べてくれるところも想像出来ない。結局俺の淡い希望は叶わないということか。

「どうぞ」
「そっか。ありがと」

トキヤの短い返事を聞くと、手短にお礼を言い、アイスを取りにキッチンへと向かう。

このキッチンはトキヤがいつも綺麗に使っているおかげか、散らかっていることが一切無い。ここで俺のために料理を作ってくれるトキヤを見るのは、ベッドの上で乱れるトキヤを見ることの次くらいに好きだ。シンプルな黒いエプロンを身に纏い、慣れた手つきで料理をするトキヤはすごく綺麗なんだ。
もちろんアイドルの仕事をしているトキヤも好きなんだけど、あのトキヤは俺だけのものじゃない。だからこそ、家で俺だけに見せるトキヤの姿により一層愛おしさを覚えるのかもしれない。

冷凍庫を開けると、目的のカップアイスがすぐ目に入った。ハスカップにしようか紫芋にしようか少しの時間悩んだ結果、紫芋の方を選ぶことにした。可愛いトキヤのイラストが描かれたカップとスプーンを持って、トキヤのいる部屋に戻る。

「……ここで食べるのですか」

当たり前のようにトキヤの隣に座ると、台本から視線を外したトキヤが少し不機嫌そうに訊ねてくる。

トキヤは、いつもカロリーを気にしているせいで甘いものが嫌いなイメージがあるけど、実は結構好きで、ライブが終わった後とかどちらかの誕生日だとか、特別な日にだけ食べていいことに決めているらしい。トキヤ曰く自分へのご褒美だそうだ。
甘いものを口にするときのトキヤは、本当に可愛くて、ふわりと笑うとことかいつもより頬が緩んでいるとことかを見ると、思わず抱きしめたくなる。まあ、そんなこと言うと二度と俺の前で甘いもの食べてくれなくなりそうだから言わないけどね。

「別にいいでしょ?」
「……勝手にしてください」

トキヤはそれだけ言うとまた台本を読み始めてしまう。
食べたいなら、素直に言えばいいのに。ほんとめんどくさいくせに、可愛いから困っちゃうね。

無表情で台本を読み続けるトキヤを横目に見ながら、アイスのカップを開ける。薄紫色が綺麗に出ていてすごく美味しそうだ。少し深くスプーンをアイスに突き刺して、多めに掬うと、口に運ぶ。瞬間、紫芋のいい香りが鼻腔を擽った。
俺はアイスが溶けきっていないことを確認すると、何のためらいもなく、トキヤの唇に俺のそれを押しつける。勢いをつけ過ぎたのが悪かったのか、ソファの上で押し倒すような形になってしまった。

「んんっ……!?」

トキヤがいきなりのことで驚いたのか目を見開く。だけど、俺はそんなトキヤなんかお構いなしとでもいうように、舌を絡めて、未だ口の中に残るものをトキヤの方へと運ぶ。

「ん……ぁ……ふぁ…」

トキヤのくぐもった声がダイレクトに伝わってきて、身体が熱くなっていく。それに呼応するかのように、口の中にあるアイスは溶けていった。

二人の熱でアイスが完全に溶けきると、ゆっくり唇を離す。無理矢理食べさせたせいか、トキヤの唇の端からは飲み込めなかったアイスが垂れた。俺は、それをペろりと舐め取って、トキヤから離れる。

「――トキヤの味、美味しいでしょ?」

自分の唇を親指で拭いながらトキヤに訊ねる。

「…ぁ……おいし、です……」

目をとろんとさせながらトキヤが呟く。
心なしかその顔は薔薇色に染まっている気がする。
そんなに気持ち良かったのかな?

「……トキヤ、もしかしてシたくなっちゃった?」

耳元で囁くように訊ねると、トキヤの顔がさっきよりも真っ赤に染まる。
答えなんて聞かなくても、嫌というほど伝わってきた。

トキヤには怒られるかもしれないけど、ちょうどアイスもあることだし、全部溶けきっちゃう前に、ちょっとマニアックなことをしてもいいかもしれない、そんなことを考えながら、トキヤの唇に噛みつくようなキスをしたのだった。










***

氷夏ちゃんから頂きました音トキちゃん…!
トキヤちゃん可愛すぎて萌えすぎて禿げた挙句に逝ってしまいそうな伊鷺です←
アイスでいちゃいちゃ最強ですね!
氷夏ちゃん
素敵SSをどうもありがとうございました!


[2012/09/13]





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