Lollipop candy

□ふたり
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Side 蘭丸





 脚に感じる重み。年齢の割にあどけない寝顔。テーブルに置かれた耳かき棒。
 それらが総じて、蘭丸に深いため息をつかせた。

(いい歳こいて耳かきしてくれなんて…アホだろ、こいつ……)

 突然連絡もなく部屋を訪れたかと思えば、用件は「耳かき」。そのうえ膝枕まで要求されてしまっては、ただただ呆れるしかない。
 男の硬い脚のどこが良いのだろうか。始まってものの五分で、この迷惑な訪問者――嶺二は、すやすやと寝息をたて始めた。一体どんな夢を見ているのか、幸福そのものの表情で。

(わけわかんねぇ……)

 出会ったころからそうだった。嶺二の行動はいつも突然で、突飛で、理解に苦しむ。
 そもそも何故自分を執拗に構うのか。好かれるようなことなど何一つしていない。むしろ他人と馴れ合うのは好まず、彼のことも散々突き放してきたはずだ。
 それなのに。
 どういうわけか、嶺二はことに蘭丸へ纏わりついてくる。あまつさえ――

――好きだよ、君を愛してる

「……ッ」

 そう、まるで女のように口説かれてしまったのだ。耳元に蘇る甘い声、密やかな吐息に、むらむらと羞恥が湧いてくる。慌てて首を振り、気恥ずかしい記憶を思考の外へと追いやった。

(それにしても……つくづく変なヤツだぜ)

 紛れもなく男である自分へ友情どころか恋愛感情を向けてきた男を、蘭丸は改めてしみじみと見下ろした。
 物好き、なのだろう。
 けれどそんな嶺二以上におかしいのは、彼の求愛に慣れつつある蘭丸自身だった。
 部屋に入れ、スキンシップを許し、いいように甘えさせて。膝を枕に貸したまま、大人しく彼の寝顔を見守っている。

(調子が、狂う)

 嶺二といると、自分が保てない。気付けばいつも彼のペースに巻き込まれ、呑まれている。
 どうしてなのか。自分自身の感情に、蘭丸は上手く対処しきれないでいた。
 初めてなのだ。誰かにこんなにも心を掻き乱されるのは。

「クソっ…」

 ぶつけ先のない戸惑いに、苛立つ。けれどその元凶である嶺二を突き落とそうとは、どういうわけか思えない。そんな自分にますます困惑し、腹が立った。

「…このやろっ」

 腹いせに、熟睡する嶺二の鼻を指で軽く摘まんだ。すると、彼の鼻から「ぷひっ」という間抜けな声が漏れる。しかしながら、それでも嶺二は依然として目を覚ますことなく、気持ちよさそうに眠り続けていた。
 彼のせいで苛々と頭を悩ませているというのに、それがと馬鹿らしくなるほどのどかな光景だった。
 再び、ため息が溢れた。

「はぁ…。もうめんどくせぇ…」

 脱力してソファへ凭れる。嶺二を膝に乗せたまま、丁度良くやって来た眠気に任せ蘭丸も目を閉じた。




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