二次創作

□沖田の憂鬱?(薄桜鬼)
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まただ――。


君があの人に笑いかけるたびに僕の心はギシと音をたててきしむのに。

君は気付かない。

いつだって無邪気な笑顔を向けてくる。

君があの人を見るときだけ他とは違う視線を向けることくらい皆知ってるのに。


それなのに、僕を見つめる目は優しいから……


時々僕は君を殺したくなる――。



「沖田さん!」
「ん?何だい?」
近頃、新撰組の屯所に住むようになった、あの人の小姓が駆け寄ってくる。
「あのっ、土方さん何処にいるか知りませんか?」
「んー、自室は見た?」
胸の内に小さく嫉妬を抱えながらも僕は笑いかける。
「えっと、仕事場しか…」
「多分、自室で歌でも詠んでるんじゃないかな?」
一人、下手な歌を詠む土方の姿を思い出して笑いが込み上げてきた。
「えぇっ!?」
「くくっ」
まあ普段の彼からは想像できないだろう。本気で驚いて目を大きく見開いている目の前の彼女に無性に触れたくなる。
「かわいいね」
「えっ…!!?な、何言って…」
本当にひとつひとつの仕草が可愛らしくて、いとおしくて
「赤くなってるよ」
「な、なってないです!」
そして…
「本当に…、君は残酷だ」
どんなときも誰にだって優しく接する。彼女の隣は温かくて心地いい。
だけど、どんなに想ったって彼女の心は唯一人のもので。きっと彼女自身まだ気付いていないんだろうけど、それはどうしたって明らかで。
素直で純粋な彼女が愛しいのに、同じくらいそんな彼女が憎らしくて。
気付いたら僕は彼女の首に指をかけていた。
「お…きた…さん…?」
彼女が恐怖心の少しこもった目で僕を見つめる。
「君は…、僕が怖い?」
僕は嫌な笑顔をはりつけて彼女の顔を覗き込む。
「怖くないです」
「…本当に?」
明らかに怯える気持ちがあるはずなのに
「沖田さんは…優しい方だから…」
はっきりと口にする彼女は、汚い僕の隣にいるのが似つかわしくないくらい綺麗だ。
「本当に君は…。…ごめんね」
僕は何を言おうとしたのだろう。彼女の首をそっとなでてから手を離す。
「あ、いえ…」
安堵の表情を浮かべた彼女はまたも僕に柔らかい笑みを向けた。
「僕はそろそろいくよ。巡回の時間だ」
立ち上がって彼女から離れる。
「沖田さん、気をつけて下さい!」
彼女の声を背に。



ブシャァァッ――
赤い鮮血が頬に飛び散る。腕に残る人の肉を斬った感触とともにそれを心地好いと感じながら剣を構え直した。
「頼む…命だけは…」
新撰組の強さを目の当たりにした相手にもう戦う意思は残っていないことなど容易に推測できる。それでも、
「無理だよ」
僕は血に狂っている。そんなこととっくのとうに気付いてた。
だけど、忘れるくらい彼女は僕の心を埋めていたんだ。


ああ、僕は馬鹿だ――。


彼女への歪んだ愛を持て余す僕は今日も人を斬る―。
そして、考えるんだ。彼女を斬ることを。見たいんだ。
僕の腕の中で血にまみれながら、とても綺麗に笑う彼女の姿を。


-end-
 

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