dream

□アカギ
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「アカギさん、私アカギさんのことなんか嫌いになりましたから」

布団から出るなり煙草を吹かし始めたアカギさんを、腕を組んで見下ろしながらそう言った。本当はちっとも嫌いだなんて思ってないし、アカギさんから見上げられ真っ直ぐに見つめられるとどきりと高鳴る心臓がその言葉が嘘だと明らかに示す。灰皿に押しつけられまだ長い煙草が細い煙を立てた。私が嫌いという言葉を発してから、一瞬だってアカギさんの両眼は私を捕らえて離さなかった。焦ってごめんの三文字を形作ろうとしたのに、唇が動かないくらいにこわいと感じる。

「・・・そんな見え見えの嘘吐いてどうしたいの?何か不満でもあった?」

長い指が私の服を掴んで勢いよく引っ張った。ぷちんとどこかの糸が切れた音が聞こえて、これはまずいと思い素直に引かれて崩れるようにアカギさんの腕の中に収まる。乱暴な口付け、顔を背けようとしたら唇を噛まれてこれでもかというほど唾液を送り込まれた。でも・・・怒ってるのかと思ったら、そうでもないらしい。本当に機嫌が悪いときはこんなもんじゃない、涙腺が壊れるくらい泣かされて足腰立たなくなるほど犯される。それも一切の抵抗を許さずに。だから、きっと、彼の胸を押すくらいのささやかな抵抗を許されている今はそんなに怒ってないのだと思う。

「う、うそなの、四月、一日だから・・・」

長いキスの果て唇を離された隙に必死にそう伝える。好きです、小さく付け足して。しどろもどろの私に対してアカギさんはククッと喉の奥で笑って私の頬に触れて知ってる、と。

「あんたこういう悪ふざけ好きだもんな。でもね、嘘でも嫌いとか言っちゃ駄目」

耳元に唇を寄せて言い聞かせるように囁くアカギさんの手が腰の辺りを滑った。そのせいで反射的に体を離そうとしたのがいけなかったのだろうか。

「二度と、そんな言葉言わせない。言ったら・・・ね?」


違う、いけないのは嘘を吐いたこと。気付かぬ間にすっかり不自由にされた両手とぐらりと後ろに傾く重心に冷や汗。アカギさんの方が何倍も何十倍も嘘も、感情を隠すのも得意だって理解してたはずなのに。


「馬鹿。かわいい」

だけどね、口の端を上げて楽しそうな顔をするアカギさんを見ていると馬鹿でも嘘でもいいような気がしてきて。

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