dream

□クリスマス(カイジ)
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「カイジー!お酒持ってきた!」

5回くらい連続でチャイム押したら出てきてくれたからへらっと笑って手に持った袋を掲げると、カイジは参ったというように頭を掻きむしってため息を吐いた。私はそれをオッケーと解釈して家主であるカイジを押しのけて家に上がり込む。ここに来る前に友達と飲んできたからもう既に気分がいいし、同時にすごく眠たい。さっき解散になって、帰ろうと思ったのに何故か無性に会いたくなってしまったから連絡もせずにふらふらと立ち寄ってしまったわけだ。

「相変わらず寂しい部屋!」

お互いに変な遠慮することもない仲だからつい思ったこととかそのまま言ってしまう。大概翌日くらいに思い出しては言い過ぎたかなとか反省するんだけど、だからといって態度を変えようとか謝ろうとか思うことは無い。
ビールの空き缶が二つ転がっているテーブルをちらりと見やってから床にどっかりと座りこんだ。袋からいつもより少しだけ高いお酒を出して机の上に見せつけるように置く。

「クリスマスでしょー、ちょっといつもより頑張っちゃった」

何か言いたそうなカイジにコップ持ってきてねと頼んで携帯を開いてメールチェック。我が家のようにくつろがせてもらう。お酒自体は歓迎だったのかカイジはすぐにグラスを持って来てテーブルの向かい側に座った。

「どうしたんだよ、こんな時間にいきなり」

「んー?何となく、何となくね」

行きしなにコンビニで買ったつまみを広げながら、お酒を開けるのはカイジにまかせる。あっという間にテーブルの上は賑やかになってグラスもなみなみと満たされた。

「じゃ乾杯」

ちん、と軽く乾杯を済ませ一気に呷る。もう十分に飲んだけどここまできたら明日に残るくらい飲んだくれてやるんだ。クリスマスだからって浮かれてるバカになりたい気分なんだ。

「しっかし、クリスマスだって言うのに一人でビール?さっみしいわねぇ…」

「…お前さ、」

何よと返事をしながらも視線は柿ピーに。脇に置いたケータイに何の着信もないこともちらりと確認した。

「もしかして振られた?」

指先からピーナッツがぽとりと落ち転がって床に着地。うなだれ髪の毛でカイジに表情が見えないようにしてから盛大にため息を吐く。

「…私だってね、」

カイジは優しいから何でも聞いてくれる。どんなくだらない悩みも愚痴もちゃんと頷いて聞いてくれる。アドバイスとか助言とかそういうものはくれないし期待もしてないけれど、私の話を、聞いてくれる。だから毎回甘えてしまう。こんな日にもつまらないことでカイジを頼る。

「もう好きなんかじゃなかったし、ちょうどいい機会だったし、あっちから付き纏ってきたくせにさ…」

次々に零れる言葉は雑音として静かな部屋に響く。カイジの相槌だけが耳に心地よくて、だから私はどんどん汚い音と気持ちを吐き出し続けた。時折不器用に頭を撫でてくれる手が温かくて泣ける。

「ほんとに好きじゃなかったもの…あんな訳分かんない男!」

だけど涙を見せるのはいっちょ前に恥ずかしがって、グラスの中身を一気に飲み干して誤魔化したつもり。
それなのに逆に溢れる涙に腹が立つ。自分の体なのに何で思い通りに涙を止めることが出来ないんだろう。

「…ごめん」

無言でティッシュを差し出してくれるカイジに重ね重ね謝ってメイクが崩れるのも気にせずごしごし目もとを拭った。だから箱ティッシュの隣のもう一つの箱に気付いたのは少したってからのことだった。

「何、これ…」

ちらりとカイジを見て尋ねると、視線をうろうろと彷徨わせて言い淀んだがやがて私の手元辺りを見ながらぼそり、「クリスマスだろ…」と。鼻を啜りながら包みを解くと出てきたのはクローバーの真ん中に小さなピンクの石があしらってあるかわいらしいネックレス。

「…それ、やるから…元気出せよ」

「何で、こんなの買ったの…?誰かにあげるアテがあったんじゃないの?」

「もしお前が来たら、やろうと思ってた」

不覚にもどきっとしてしまった。どういう気持ちで買ったのか聞けないけど、こういうの売ってる店に入って選んでるカイジを想像すると面白くって我慢もせずに爆笑してしまう。対してカイジは予想と違う反応だったのか情けない表情をしておろおろしている。

「ね、似合う?」

ひいひい笑いながらネックレスをつけてみてそう聞くと勢いよく何度も縦に振るカイジがかわいらしく見える。基本的に駄目人間でニートな彼だけどこういうところは本当に愛しく感じてしまうのだからどうしようもない。

「バイトしてたんだ?出かけてるのとか全部パチンコだと思ってた!」

「びっくりさせようと思ってたんだよ…」

「で、今後も続けるの?」

「…目標が無くなったら途端に労働意欲が無くなった」

「ほんっとーにだめな人!」

一旦スイッチが入ると笑いが止まらなくて、涙なんてすぐに乾いて忘れてしまった。アルコールもいい感じに回ってきたからもう何もかもが軽くてどうでも良くなってきて。

「ね、私のこと好きなの?」

ふらふら立ち上がってカイジの目の前に正座して真っすぐに質問する。すっとんきょうな声をあげてそういうわけじゃ…とか分かんねえ…とか口の中でもごもご言っていたけど最後にはこくんと小さく頷いた。何でか分からないけどすごく嬉しくてたまらなくてどうにかなりそうで、都合良くももしかしたら私もずっとカイジのこと好きだったんじゃないかと感じた。

「ぜーんぜん気付かなかった」

カイジの頬に触れながらお互い同じくらい熱いんじゃないかなと思う。尻軽でも浮気性でもないもの、酔っているから仕方がないもの。さらりと唇を奪って、茫然とするカイジの頭を今度は私が撫でてみる。

「…慰めてよ、朝まで」

こんなのいいのかなんて考え出すと虚しくなるけど、もう色んなこと忘れてしまって明日になったらまた考えればいい。明日はクリスマスじゃないから許されなくてもその時に、また考えれば。

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