dream2

□アカギ
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雨の日は嫌い。何か気分が落ち込むし、髪の毛が広がってまとまらない。外に出たら靴とか靴下とか濡れて気持ち悪いし、肌寒いし、何と言っても雨の日は花見が出来ない。花見が出来ないから、今日は雨が嫌い。

「そんなに熱心に空見てても、止まないと思うけど?」

「分かってるわよー…」

せっかくの休みだからと一週間前からお花見計画してたのよ?当日である今朝目が覚めて外見た途端雨だって分かってももしかしたら止むかもしれないとお弁当まで作ってたのだから、簡単に諦められるわけがないじゃないの。未練たらたらで窓から外を眺めつづける私に声をかけたアカギさんにふくれっ面でそう答えながらも、もう少しだけ希望持ちたいから灰色の町に目を向けたまま。

「そんなにしたかった?花見」

「うん。春と言えば、花見なんだもん」

「…ふーん」

興味無さそうな相槌。別にいいんだけどさ、今日晴れてたとして私が誘っても来てくれたかどうかって感じだし。家にいるよとか言いそうだもんな、アカギさん。

「煙草切れたから、買ってくる」

「…行ってらっしゃい」

ドアの開閉の音を聞いて、私はああーと気の抜けた声を出しながら床に転がった。一人だけの部屋はとても静かで、雨粒が落ちる音しか聞こえない。煙草のついでに甘い物のひとつでも頼めばよかった。でも甘い物も、桜見ながら食べたらいつもよりおいしかったんだろうなあ…なんて、どうしても引きずってしまう。止まないよ知ってる。今年は中止も分かってる。でもアカギさんとお花見したらどんなだったかなって想像したら、それだけでわくわくしてしまうんだもの。無駄に浮ついた気持ちに蓋をするように目を閉じた。
…少しだけ休むつもりだったのに、どうやら1時間ほど時計が進んいる。不貞寝しちゃったみたいだなとぼさぼさの頭を掻きながら思った。アカギさんはまだ帰っていないし、雨も降り続いている。そろそろ切り替えて午後からどう過ごすかとか夕飯どうするかとか考えようかなと立ち上がった。

「お昼、弁当食べよっか」

机に置かれた風呂敷を解いて、いつもより気合を入れて作ったお弁当を開く。自分しか褒める人がいないからおかずを摘まむ度一つずついいところを探す遊びなんかをやってみたけど、予想通り激しくつまらなかった。朝からあまり動いてないせいか結局大半を残してごちそうさまと両手を合わせ、またごろんと横になった。耳が痛いほど音が無い。アカギさん早く帰ってこないかな。寂しい。


「ただいま」

って、何ていいタイミングで帰ってきてくれるんだろうアカギさん。寝転んだままおかえりって言ってアカギさんに手を伸ばしたら、うん、ただいまともう一度繰り返して等閑に握ってくれた。そしてすぐ離れていった温もりの代わりに、何かが手の中に残る。

「何、これ…あっ!くれるの?ありがとう!」

嬉しくてすぐ体を起こし、手のひらの軽い重みを目を瞬かせて眺めた。

「好きでしょ?」

早速煙草に火をつけているアカギさんに向かって何度も頷く。何で私が今一番食べたかったチョコレート。口に含めばさっきまでの鬱々とした気分がすぐに晴れてくこの調子の良さだ。
しかし、私が驚いたのはそれだけじゃなかった。

「…それ、」

何やら台所でごそごそしていたアカギさんが手にしていたのはビール瓶。どうしてそんなものを、と疑問に思ったのは一瞬。アカギさんはビールが飲みたかった訳でも何でも無くて、その瓶を机の真ん中弁当の脇に置いた時初めて分かった。そしたら苦しくなるくらいドキドキして堪らなくなってアカギさんの背中に抱きついて、私にしては珍しく思ったままに大好きと呟いた。少し湿ったシャツに頬をくっ付けてアカギさんと雨のにおいを一緒に思い切り吸い込む。とても安心するにおい。

「何先に食べちゃってるの…せっかく準備したのに」

「だって…ごめんね、ありがとう」

魔法みたいに私の欲しいものをくれるアカギさん。だったら私もお返ししないといけないじゃないか。


「お礼、何したらいい?」

「久々にアンタが素直だから…そうだな、何からしてもらおうか」


残念ながらビール瓶を一輪挿しとした小さな花見は後回し。

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