dream
□はじめてちゅうをするはなし
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「…なぁ、キスしていい?」
今朝から様子がおかしかった理由はこれかと、唐突なその発言で気付く。手を繋ぐだけでもデートが始まって三時間の心の準備が必要な彼のことだからかなり勇気を振り絞ったことだろう。ちなみに心の準備中はあらゆることが上の空でしかもどことなく挙動不審、ド緊張と気恥ずかしさがまる分かり。
「いいよ」
顔を真っ赤にして俯く情けなくもかわいいカイジに、努めて軽いトーンで返事をした。キスなんて初めてだからさっきの言葉は私をとんでもなくドキッとさせたし、正面きって宣言されるとやはり緊張するのだが、感情をそのまま顔に出すとどうしようもない空気になりそうだから何でもない風に反応するように頑張る。
「えーっと…ま、マジで?」
部屋の真ん中で二人が二人とも赤面して正座で向き合っているこの光景は何とも奇妙なことだろう。中学生でもあるまいし、キスくらい、挨拶みたいに軽く出来ればいいのに。
「マジだってば…」
とりあえず目も合わせられないんじゃ無理じゃないかとは思うんだけど。きっと急かさない方がいいんだろうな。
「ほんとに、するぞ…?」
「うん」
「じゃ、じゃあ…」
躊躇いがちに私の頬を包む手のひらはしっとり、というかどちらかというとびっちゃりしている。息荒いし目は左右に泳ぎまくっているし、あえて点数をつけるならここまでの評価は百点満点中十点。十点すら努力点だ。もっと頑張りましょう、だ。…と、余計なことを考えてないと私だっておかしくなりそうなくらい心臓がばくばくしている。
「ほんっとーにいいんだな…?」
「いいってば…」
「あのだな、」
「い、いつするのよぉ!」
焦らしているのなら彼はものすごい意地悪だしそれを怒ることもできるけど、本当に気遣いとか躊躇とかそういう心境でこうなのだから仕方ないのだ。仕方ないのだけれど私もさすがにもう黙って待てない余裕の無さ。
カイジはごめんと口の中でもごもご謝って、意を決したように私の目を見つめた。恥ずかしくて耐えられなくなったのは私の方で、きゅっと目を閉じてその瞬間を待った。
…額の辺りにカイジの髪の毛が当たってくすぐったいと感じたのと同時くらいに唇に微かに柔らかい感触が。本当にキスをしたのかもしかしたら勘違いだったのか分からないまま、次の瞬間には痛いくらいに抱き締められていた。
「…マジで、好き」
「わ、私も…」
身体中が熱くてたまらない、キスってなんかすごい。私たちはしばらく互いの鼓動の音だけを聞きながら抱き合っていた。
「…てゆうか、ほんとにキス、した?」
「し、しただろ!…多分、ちょこっと」
「次は、私からしよっか…?」
「きょ、今日は無理…!これ以上緊張したらおかしくなっちまうから…」
「…じゃあ、また明日にする」