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□何千回、何万回の
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「狩屋」
「何す、か…っ!」
反射的にばっと顔をあげてしまい、しまったと思った時には既に遅し。両頬に先輩の手がそえられ、頭をがっちり抑えられたと思えば俺の唇に先輩の唇を押しつけられる。
(長い。長い長い長い長い。息が出来ない。苦しいって、ってか子供が見てるから凝視してるから…ッ!!)
「…っは…変な顔」
「う、っさいな……」
やっと離されたと思えば未だに凝視している公園で遊んでいた子供達にどやされて今すぐこの場から逃げ出したかった。というか逃げ出した。それはもう未だかつてないであろう速さで。
後ろから先輩が俺の名前を呼びながら追いかけてきているのはわかっているが、一度走り出したら止まらなくなっていて、気付けば公園からかなり離れた駅前まで来てしまっていた。
(…どんだけ走ったんだ、俺)
は、は、と細切れの息がやけに胸に刺さる。先輩から逃げてきてしまったようなものなのだから、当たり前のように両目からは涙が絶えず溢れては頬を伝ってアスファルトに落ちてゆく。情けなかった。何で逃げたんだ、何で、何で。
誤解された。そう考えると余計に涙が止まらなくなってしまう。唯一俺の事を理解してくれてる人を、俺
は自分で拒んだのだから。
きっと、嫌われ―…
「狩屋!!」
突然、さっきのように名前を呼ばれて振り返ろうとする前に身体に何かが覆い被さったような暖かさを感じた。
「っせん、ぱ、い…?」
「はぁ…。こんな所まで来てたのか…。猛スピードで走って行くもんだから追いつけなくてな…。ったくもう…、あほか、お前は」
ぎゅう、と後ろから抱きしめられ、肩に額を押し当てているのは紛いもない、霧野先輩だった。ぐちゃぐちゃになった感情が一気にこみ上げて来るのがわかる。
「悪い…。俺が悪かった。もう少し場所を考えるべきだったな…。嫌いに、なったよな」
(違う、そうじゃなくて。先輩が悪いんじゃなくて…嫌いじゃなくて…!)
後ろを向くように身体を動かして、先輩の首に腕を絡めるように抱きつく。やはり表情は見えないが、吃驚してくれてたらいいなあなんて下心もあるんだけれど、それよりも、どうにかして気持ちを伝えるにはこうした方が良いかと思ったからだ。
「…、狩屋…」
「好きです。大好きです憎いくらい、大好きです…! だから…ッ」
――…俺を、愛して。
先輩の顔が見れるように少し離れて言う。先輩は面白い程
目を見開いてかなり驚いた表情を見せたかと思うと、困ったように眉を下げて笑い、再び俺を抱き寄せて「ああ、愛すよ」そう言って二度目のキスをした。
何千回、何万回の愛してる
(よし。ケーキ食べに行くか。奢ってやるよ)
(えっ、いいんですか?)
(そのために呼んだんだからな)
(まじですか)