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□何千回、何万回の
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かーごーめーかーごーめー、かーごのなーかのとーりぃはー…


まだ幼稚園くらいであろう五、六人の幼い子供達が、童歌の一つであるかごめかごめを可愛らしい声で歌いながら、公園できゃっきゃとはしゃいでいる姿を見て、ああ俺もこんな時期があったなと懐かしく思う。

しかし、それと同時にあの忌々しい過去の出来事が脳内をフラッシュバックするのだが、今の俺にはそれ程までに苦を生み出すものではなくなっていた。理由は何となく解る。いや、確実にそうだと言い張ろう。


「おー、狩屋お前こんな所にいたのか」
「っ…何だ、先輩か…。不審者のおっさんかと思った」


背後から急に声かけてくるなよ、と悪態をつきながら、横目ではまだ楽しそうに遊んでいる子供達の姿を映す。自分で言うのもなんだけど、結構シビアな世界を生きてきた俺からしてみれば、ああやって無邪気に遊べるというのは羨ましい事でしかなかった。

とは言ってもたかだか二年なのだが、二年を馬鹿にするなよ。月で言ったら24ヶ月。日数で言ったら730日だぞ。そう考えると長いだろばーか。


「不審者はおっさんだけじゃない。全国の不審者のおっさんおばさんに謝れ」
「いや意味わらないんですけど」



とかなんとかほざいているのが、俺の過去の傷を中和していった張本人である霧野蘭丸。霧野先輩だ。少し屈辱でしかない。何でこんな奴に救われなければならないのかが不明でならない。事実は事実なのだからしょうがないのだが。…やっべー俺超大人ー。


というか、人を公園前なんかに呼びだしておいてちゃっかり遅れてくるなんて人としてどうなのだろうかこの先輩は。


「そう言えば、何かまた戦争が始まるとかネットで話題になってたぞ」
「まじすか。…まさか、それを言う為に呼んだんですか?」
「違うわ阿呆。ただ、今ふと思い出したから言ってみた」
「何そのお茶目精神」


好きな人から呼ばれて悪い気はしないのは当たり前だが、理由が理由だと少し悲しくなるものだよなあとか考える。先輩が「戦争は悪いよな…」と一人ぶつぶつ呟いていてくすり、と笑った。


「戦争は悪くないと思いますよ」
「いいんだよそんな屁理屈」


実際そうじゃないか。戦争というものが悪いわけではなく、戦争を起こした人が悪いのであって、そう考えると日本語って残酷だという気がする。いや、寧ろ残酷なのだろう。

一つ例えを出すとすると、「悲しい手紙」があなたや友人の元に届い
たとしよう。その手紙には友人の不幸が記されていたものだとして、あなたはその友人が大好きだとすると、その手紙はあなたや友人にとって「悲しい手紙」となる。しかしそれとは裏腹に、あなたがその友人を嫌っていた。そしたら、それは悲しい手紙ではないとなると、あなたには「嬉しい手紙」となってしまうのである。

何が言いたいかと言うと、つまりは「悲しい手紙」と記された手紙が誰もが必ずしも悲しいと感じるものではないとなり、誤っている、となってしまう。

だから、物事を「悲しい」や「嬉しい」、「美しい」などと言った感情が混じるような言葉は仮にもその人が思った事であって、正しいとは言えないものなのだ。


「そんな難しいこと言われてもな…」


理解不能、と言った表情を顔に出す先輩を見て勝ったような気がして、何だか嬉しくなったためにやにや笑っていると、「気持ち悪いな」と吐き捨てられて頭にきたがあえてスルーする事にする。


「…まあ、何にせよ平和であってほしいよな」
「そーですねぇ」
「狩屋と一緒に居られなくなるのは嫌だからな」
「…先輩…それはずるいです…」


さらり、と恥ずかしいことを言いやる先輩は、いつもずるい。毎回毎回ド
キドキしっぱなしでここまでくると心臓が保たない。幾つあっても足りないくらいしてやられていて悔しい。


「いくら憎まれ口叩かれても可愛いと思えるのはやっぱり、惚れた弱みなんだろうな」
「だ…っだから、何でそういうこと平然と言うかな、先輩は…」


格好いいだなんて死んでも言える訳ない。
一向に冷めない頬の火照りを隠すために俯く。先輩の表情は見えないけれどきっと笑っているだろう。気持ち悪いくらい綺麗な顔で、気持ち悪いくらい綺麗な笑顔で。でもそんな先輩が、俺は好きなのだ。これは変更のしようがない事実で、しょうがない事である。

だからといって素直に「好きです」なんて言える奴じゃないからこうして言われっぱなしになっているのが余計に悔しい。俺だって、こんなプライドがなければ思い切り抱きついて甘えられただろうに。…考えただけでも寒気がする。
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