4つの季節と僕らの心
□04
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今日は何もなかった。
いや、何も“起こさなかった”が正しいだろう。
俺が、じゃなくて狩屋が。
狩屋が入部してから一週間が経つが、毎日と言っていい程嫌がらせを仕向けてきたのに、だ。
何の心境の変化だと気になったが、聞いてあいつの神経を逆撫でして再び嫌がらせをされても困る。
大分扱いに慣れたとはいえ、嫌なものは嫌だし、それにサッカー部員に迷惑もかかる。
俺ははぁ、とため息を吐いた。
隣にいた神童にどうしたと心配されたがなんでもない、と軽く流しておく。
(ああ、苛々する…)
* * *
時を遡る事三十分前。
一年は準備をしなければならないのに、今いるのは松風と西園と影山。
狩屋がいない事に気が付いた神童が、俺に捜してくるように頼んできたのだ。
「なあ、狩屋がいないんだけど、霧野、お前捜してきてくれないか」
「はぁ…!? 何で俺が!」
先程、自販機で嫌いなウーロン茶を紅茶と間違えて買ってしまい不機嫌なのに、更に追い討ちをかけられるように大嫌いな後輩の名前を出されて、こればかりは俺も怒ろうかと思った、が。
「紅茶、買ってやるから。な、頼む」
「…しょうがない。行ってやろう」
と、言うことで俺は紅茶ゲットと共に狩屋を捜す羽目になった。
(…ウーロン茶、あいつに押しつければいいか)
* * *
当たり前だが、グランドにはいない。
ならば更衣室が妥当だろう。と、扉を開けるとやはり、いた。
俺が入ってきた事に気づいていないのか、ぼーっとロッカーに向かいながら制服を脱いでいる狩屋。
(…これじゃあ俺が着替えを覗いている変態みたいじゃないか)
何で俺がこんな思いをしなければならないのか、とそんな理不尽な理由で俺は狩屋に近付き、何も纏っていない背中に間違って買ってしまった紙パックのウーロン茶を押しつけると、ひ、と小さな悲鳴を上げてキッと睨んできた。
「…何ですか」
明らかに不機嫌な声音でそう言った狩屋。
俺をどう映しているのかはわからない黄金色の瞳がとても綺麗だと思った。
…瞳は、だが。
それに、未だに押しつけているウーロン茶が冷たいのか、顔をしかめる狩屋がありえない事に可愛いと思えた。
「ん、これ、やるよ」
「…は?」
ウーロン茶を背中から離して狩屋の目の前に差し出すと、反射的にか後ずさりをし、顔をしかめた。
コロコロと表情が変わって面白い。
見ていて飽きない奴だ。
「…。ウーロン茶…ですか」
この反応からして、きっと嫌いなのだろう。
だが、それに気付いた所でどうって事もない為、差し出す手は下げない。
それよりも、さっきから腕を上げっぱなしでかなり痛い。
それに、こんな所で油を売ってる場合じゃないのだから早く受け取って欲しいのだが中々受け取ってくれないこの後輩に苛立ちを覚える。
「間違えて買ったんだ。だからやる」
「はあ? 意味わからないんですけど。だったらそっちが欲しい」
(そっち…? あぁ、紅茶の事か)
「駄目だ。ウーロン茶嫌いだから。俺が」
「いや、俺も嫌いなんですけど」
「いいから飲めよ」
何それ理不尽と呟いた狩屋に、ざまあみろと心の中で言い放つ。
毎回毎回俺に嫌がらせをしてくるからだ。
少し嫌な思いをするがいい。
狩屋が俺の手から渋々受け取ったのを見て、何故か顔が綻ぶのがわかった。
(…何か、こいつのこんな嫌そうな顔、他の奴等には見せないよな)
そう思うとどこか特別な気がしてちょっとした優越感。
このままの関係でも良いかなあなんて。
ウーロン茶を片手に更衣室を出ていく背中を眺めながら思った。
(…あ、そう言えば今部活中だった)
急いで紅茶を飲み干し、ゴミ箱に紙パックを投げ入れてグランドへと走った。
この後、案の定遅れてきた霧野は神童にこっぴどく怒られたのは言うまでもない。
それにしても、何故あの場所でぼーっとしていたのかは不明なままだった。
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・不安定狩屋
・大人げない霧野
ということで04です!
前回の話があまりにも短かったので今回は、倍…あるかしら…。
少しずつ、着実に揺れ動いていく狩屋達の心を表現するのがむずかしい…。