tame

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プロローグ



元気よく屋敷を飛び出した少女はメイドに呼び止められた。


「お嬢様、どちらへ?」
「ちょっと、さんぽ。」
「お一人では危ないですよ。私もお付き添いします。」
「おにわの中だけだから!ひとりでだいじょうぶ!」


困ったように眉を下げるメイドだが、成長著しい少女が庭で遊ぶ程度ならと諦める。

貴族の庭だ。広いに決まってる。さすがに迷子にはならないだろうが、何が起こるかはわからない。


「わかりました。でも、30分だけですよ。」
「けち。」
「30分経っても戻らなかったら探しに行きますからね。」
「だいじょうぶよ。」

そう伝え少女は走った。しかし数メートルでまた舞い戻る。

「とけい、かして!」
「あ、そうですね。私ので良ければどうぞ。」


渡せば元気よくお礼を言って走り出した。何が少女を引きつけているのか、メイドは不思議だった。


「はぁ、はぁ…。」


あたりに誰も居ないことを確かめ、庭の端にしゃがみ込む。敷地の仕切りにしてある柵。その一部が少しひしゃげていた。


「う…ん…。」


それは子供には十分な広さ。
そのひしゃげた部分に身体をねじ込み柵の外側へと飛び出す。

少し服が汚れたって気にしない。それほどに少女が夢中になるものがあった。


林の真ん中に位置し、聳(そび)える屋敷。薄い林を走り抜け、その先にある小さな野原へ。街と屋敷との中間に位置する。

しばらく走り続け、野原に小柄な影を見つけると少女は笑顔になる。足音に、影は茶色いの髪を揺らして振り返り、少年は少女を見つめた。



「アレンくん!」
「リナリー!」


荒い呼吸の少女、リナリーを眺め、アレンと呼ばれた少年は苦い顔をした。


「リナリー、服がよごれてる。」
「あ、ほんとだ。」


アレンはリナリーの服の泥を払ってやる。


「きをつけろよ、ばれたらヤバイから。」
「だいじょうぶ。だから、」


おはなしのつづき、きかせて?
天使のような笑顔にそれ以上アレンは何も言えず、急かされた話をする。

今まで回った国の話。半分以上は自分の自慢話のようなものだ。それを楽しげに聞いてくれるリナリーの存在が嬉しかった。


「それで?どうなったの?」
「おどろくなよ、オレが……」


リナリーは自慢話だろうがなんでも良かった。退屈な暮らしがアレンのおかげで一変した。会える時間が楽しみでならなかった。


「そいえば、なんでとけい持ってんの?」
「え?あ!30分でかえるって、やくそくしてた!」
「もう、何分たってる?!」


慌てて手の中にある懐中電灯を見る。時計の針を見て少女は弾けるように立ち上がった。

帰ると約束した時間まであと3分しかなかった。


「もうかえらなきゃ!」
「はやく、もどれ!」
「つぎ、いつ会える?」
「じゃああさって!はやく!」
「う、うん!」


名残惜しい気持ちを残しながら走る。外に出ているなんてことがバレてしまっては、怒られるに決まっている。そうリナリーは考え、懸命に走った。

屋敷の柵が見え、少しホッとする。再び同じ隙間に身体を入れ、庭に転がり込む。


「はぁっ、はぁっ。」
「お嬢様?」


離れたところから声がした。平然を装うために息を整え、声の方へと向かう。


「なぁに?」
「あ、いらっしゃ…まぁ!お洋服がそんなに汚れて!何をなさっていたんですか?」
「えと、ひみつ。」
「とりあえずお風呂に入りましょう。お話はそれからです。」


メイドに連れられ屋敷の中へと姿を消すリナリー。その様子を見たアレンは少しホッとする。

リナリーさえ口を滑らさなければバレない。心配で付いてきたが、何もないとわかるとへたり込んだ。


「デカイな。」


これが自分とリナリーの差なのだと、痛感させられる。柵に隔たれた一般人と貴族。

それでも、少年は少女に恋をした。

叶わないなら、伝えてしまおうか。この時代大抵貴族にはフィアンセがいる。小さな少女だって例外ではない。


「あさって。」


伝えると、そう決めた。





「さぁお嬢様、なぜそんなお洋服を汚してしまったんですか?野蛮な遊びはいけませんよ。」
「ちょっと、ころんだだけ。」
「お気をつけてくださいね。」
「うん。それより、ずっとね、ドキドキするの。」


うつ向いて、胸に手を当てる。濡れた髪が少女の顔を隠し、ポタリと雫が落ちて絨毯に染みを作った。

メイドは長く美しい漆黒の髪にタオルを当て、優しく髪を拭く。


「どういうときに、ドキドキなされるのですか?」
「えっと、男の子。」
「男の子…?あぁ、許婚の坊ちゃんのことですか?そしたらそれは恋ではないでしょうか。」
「こい…って、なに?」


リナリーがメイドに顔を向ければ、母のような優しい微笑みをする。


「人を好きになるということですね。」
「すき?だからドキドキするの?」
「そうですね。」
「じゃあ、つぎ会ったらすきっていおう!」


少女の晴れやかな笑顔を横目に、それはいいですね、とメイドは笑って答えた。

それが許されないとも知らず、少女も少年に恋をした。



.



黒白さまリクエスト騎士パロ
パロなのでこちらに置かさせていただきました。貴族制度に詳しくないのでもやっとした話になってしまいそうです…すみませんorz

お楽しみいただけたら幸いです;;
設定の割愛捏造申し訳ないです;;



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