tame

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―a gap― 1






執事の仕事は朝の新聞にアイロンをかけることから始まる。



「…終わった。」



この家の当主はリナリー・リー。
お嬢様だ。
本当は兄のコムイ・リーが一緒にいるはずなのだが、あまりの妹溺愛のため、彼女に丸々一つ屋敷を与えた。



「シスコン過ぎる。」



ただ、屋敷を与えたおかげで妹との会う時間が減ったとわめいていたのは自業自得だと思う。

ちなみに僕は彼女の御付きの執事で、他にはメイドが何人もいる。
執事はなんでもこなさなければならない。

たとえお嬢様があまり新聞を読まないとしても、アイロンをかける。



「さて、と。」



長い廊下を歩いて、彼女の部屋まで。
新聞を片手にドアをノックする。



「お嬢様?朝ですよ。」

「………。」



仕方なしにドアノブを回した。

シンプルな部屋の造りで、でもお嬢様であるからやはり全て一級品。
部屋をくるりと見回してから、規則正しく寝息を立てる彼女に近付いた。

新聞はいつも通りベッドのサイドテーブルに置いておく。



「お嬢様、朝です。起きてください。」

「うん、ん……っ?!」

「僕は悪くないですよ?ミランダさんが起こし忘れてたんですから。」



僕と目が合った途端目を見開いて、あぁ、僕ってそんなに嫌われているんだろうか?

真っ赤な顔を、瞬時に枕に埋めて。



「出てって!朝はあれほど入るなって言ったでしょ!」

「すみません…でもお時間が…。」

「いいから早く!」



怒号と共に追い出された。
出てったあと、慌てて走るメイドを見た。



「ミランダさん…。」

「ご、ごめんなさいアレンくん!また私ったらお嬢様を起こし忘れるなんて!」

「僕はいいですけど、お嬢様は…。」

「また怒られちゃうかしら…。」



慌ただしく危なげにノックをして、ミランダさんは入っていく。



「嫌われてるなぁ。」

「そんなことないわ。」

「ミランダさん?」



部屋に入る前に、僕の独り言が聞こえてしまったらしい。申し訳なさげに微笑んで、再び部屋の中へと消えていった。

その途端に部屋から聞える怒号にクスリと笑った。



「そんなことないと、いいんですけど。」



でも最近特に反発されている気がする。
自分の大切なお嬢様だ。
お仕えしているのに嫌がられるなんて、悲し過ぎる。

もしかしたら反抗期…だったりして。

ぶつける相手がいないのなら、僕が思いっきり受け止めてさしあげよう。

そうやって勝手に納得しておく。
そして僕は仕事に向った。




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