羅針盤と銃一丁
□二人の行動者
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−だぁん!、だん、だん!
丸天井はよく音を拾う。
断末魔の悲鳴や金切り声、
その次にこの空間に響いたのは、
この時代に聞くのは大層珍しいピストルの発砲音だった。
一回ごとに鼓膜を裂くようなそれを、
彩売りはなんの躊躇いもなく鳴らしてみせる。
銃口の先にいた化猫さえも、
重く冷たい鉄の塊に恐れを覚えたようだった。
しかし、それでもなお向かって来る。
体を突き動かすのは憎しみと憎悪。
長年この大きく冷たいこの屋敷に閉じ込められてきた感情の全てが、鎖を失い矛先を彩売りへと向けたのだ。
生ケル者ハ殺ス。
本能ともいうべき力を前に、さすがの彼も冷や汗を流した。
「あんまりもたねえって
ゆったじゃあねえですかい…」
先程
憎悪の赤の中へ消えていった彼は、
今だにその姿を見せない。
彼が特殊な存在だということは知っているので、万が一にも死ぬことはないだろうが。
「このままじゃ、
…先に手前が死んじまう…っ」
苦笑いを浮かべながらも、彼の表情はだいぶ切羽詰まっていた。
その場には、
彼一人とこの世ならざるもの一匹。
加世と小田島は、
先程突然消えてしまった。
化猫の理とやらに引きずり込まれたようなので、多分今頃薬売りと一緒に真実の事柄を見ているのだろう。
つまり、目の前の憎悪の向く先は自分一人に絞られる訳で。
「……っ、聞きなせえ!
、化猫…っ!!」
降り注ぐ爪牙をくぐりつつ、
彩売りは必死に呼びかける。
しかし赤はいっこうに止まる気配を見せず、更にその攻撃の鋭さを増した。
、