羅針盤と銃一丁

□踊り食い!
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「…彩、売り…!!」





化猫の中から現れた彼に、
小田島が至極驚いた声を上げる。
その響きはどこか嬉しそうだ。



彩売りはゆったりと辺りを見回した後、
己の足元に伏せる薬売りに視線をやった。



「…わざわざ、
手前を呼び出したんでさあ、
こんな所で寝てねいでくだせえよ。」





彩売りは薬売りの頭を小突こうとして足を振り上げた。

しかし、








「……それは、面目ない、」










呟くような低い声。
それと同時に、
振り上げた足は伸びてきた白い手によって掴まれる。









かちり、


退魔の剣が身を緩める音がする。
刃が解放されたのだ。





目を開いた薬売りは、
抜かれた剣を強く握りしめて立ち上がる。



「おわっ…!」





未だ足を掴まれたままだった彩売りは、
それにしたがい重心を崩した。
それに気づいた薬売りは、
口角を微かにあげつつ手を離す。



彩売りが非難の視線を向けてきたが、
彼はそれに素知らぬふりをしてちらりと小田島を視界に入れた。












強い、強い“願”。

生きる為、守る為、貫く為、信じる為、

発せられたその力に、薬売りは緩く笑みを浮かべる。








「…小田島様の、
頼みと、あっちゃあ、
仕方、在るまい…」





前を見据えた薬売りに反応し、
化猫が威嚇するようにぐるると唸った。


宙に浮いた退魔の剣へと両手を掲げ、
薬売りは気を巡らせる。
彼の周りを取り囲むようにして、
数多の黄金の札が踊り出た。









「真と、理によって、」







化猫の唸りに反応し、彩売りは静かに銃を持ち上げる。

その顔には、覚悟と痛み。









「剣を、解き、放つ…っ!」







高らかに放たれた解放の言葉。









しかし、





頭上に浮く退魔の剣は、
自ら抜けたにも関わらず沈黙を貫いた。




「何!?」





予期せぬ異例の事態。

薬売りはその目に焦りを浮かべ、
低い声で唸りをあげた。







彩売りは、それを見てぽつりと呟く。







「…“偽の真”じゃ、
役不足って事ですねぃ」








本来ならこのまま傍観に徹していたい。

しかし、
今回の“物語”の“願”は薬売り、
この男だ。




彩売りは目を閉じたまま両手で紅の銃を握りしめた。





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