羅針盤と銃一丁
□昔の話をしようか
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相変わらずの赤い世界。
血のように生々しい赤いのその背景は、
そこに佇む純白の花嫁衣装を着た娘の輪郭をはっきりと別けている。
それに対峙するは、
娘とは正反対の
鮮やかさを絵に描いたような極彩の男。
「手前はいろうり。
極彩色の“彩”を“売る”で
彩売りと申しやす。
あんたの願いを、叶えに参りやして。」
彩売りの裏表のない笑顔に、
娘…珠生は幼い動作で首を傾げた。
「どうして…私の願いを?」
その問いに、彩売りは視線を下げ
懐の上を至極大事そうな手つきで数回撫でる。
「…手前の銃は、
一つの“物語”の中で一番強い“願い”
一つだけに反応しやす。
それを、あんたのために使いたかったんでさあ。」
柔らかい、慈愛に満ちた笑み。
それを浮かべる彩売りに、
珠生は何かを思って口を開こうとした。
そこへ、
『−あれは、
25年前―』
赤だけの無音の空間に、
記憶を辿るような酷く不安定でいびつな声が響いた。
、