羅針盤と銃一丁

□箱庭という鼠の巣
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札がじじじ…と悲鳴をあげる。
紅も、水に溶かされたようにどろどろと
その身を流した。



「まだ奥に、逃げられる」




この光景が危機感を促してか、
流石の伊國も冷汗をうかべる。

急いた様子で上座を跨ぐと、
豪華絢爛という言葉がよく似合う美しい壁に手をついた。

そして、
黄色く色付く満開の花の中に
まるで何かを探すようにして這っていく。

その手がぽつんと慎ましく存在を主張する赤い花につけられた輪に辿り着き、
伊國はそれを思いきり引っ張った。



何処かで、

歯車の噛み合う音が響く。






引っ張られた花が
元の位置へ戻っていくのにつれて、
轟くような轟音が辺りを埋める。

それは、
化猫のそれのようなまがまがしさはなく、
人工的で機械的な響きであった。

加世は思わずはねた肩を抱き、
松と秋花の壁画が姿を裏返していくのを
眺める。

それが全て隠れると、
壁画は新たに美女の絵を為した。


次いで鎖が引かれるような音が鳴り、
壁はゆっくりと上へ持ち上げられていく。

隔たりを無くした空間からは、
その奥へ続く深く長い階段が姿を現した。





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