羅針盤と銃一丁

□狂くる狂くる
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怒りの念はこの世の何よりも強いと聞く。

それを抑える薬売りの手は、
血管が浮き出る程に力んでいた。

だが、目前の赤い怨念はそれを嘲るかのように暴れ続ける。

「おのれ!」


恐れる心を奮い立たせ、小田島は化猫へ向かって刀を突き刺す。
しかし、それは呆気なく跳ね返され
彼は背中から壁に叩きつけられた。




皆が震えるなか、
加世がぎっ、と赤いそれを睨みつける。
引き結んだ唇がわなないている事から、
それは気丈に振る舞っているだけだと伺えた。


「塩でも、喰らええええ!」


叫び、手に抱えていた塩の壷を
投げつける。



どぷん、と水に波紋が広がるようにして、その中心に壷が沈んだ、

その瞬間。



驚いた様に不揃いでいびつな双眸を回し、化猫はのたうちながら後ろへ退いた。

その隙に、薬売りは赤の引いた襖へ札を投げつける。
そして、ふと思い出して
彩売りの紅を取り出し、
一掬いして襖へ線を書いてみる。
紅に触れた指先から、尋常ではない量の妖力を感じて驚いた。


襖に引いた紅の線は、みるみるその色を紫へ変えていく。
それは、部屋の外に渦巻く化猫の怨念の強さを物語っていた。





瞼の裏で、化猫に飲み込まれ消えた彼の姿が思い浮かぶ。




何か考えがあっての行動のようだが、
今はただ気掛かりでしかなかった。







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