羅針盤と銃一丁

□赤い
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脳が、己の目に何が映っているのか判断できていない。



障子の向こうは一面の赤い原色。

ちかちかとする視界の中に、

均等な間隔で黒い輪郭が現れた。








にゃあ…ん




悲しげな声をかわぎりに
一斉に姿を見せたそれは、庭一面の猫。




その中を、全ての赤を従えて
一つの白が現れる。


女の輪郭をしたそれに心当たりがあるのか、耐え切れなくなった勝山が刀を抜く。




「化け物めぇええ!!」




白い女が顔を上げるのと同時に、
彼は震える切っ先で走り出す。


「水江様!!」





女の顔に笑みが浮かんだのを見とめた薬売りが、慌てて彼に手を伸ばす。


「やめろぉおお!!」





女が楽しげに微笑んだ、

その瞬間、




赤い原色が波を成し、
呆然としている水江を飲み込んだ。

それは勝山をも飲み込み、
未だ立ち留まる彩売りへと迫り来る。








「…おいでなせぇ」



にこり、と微笑んだ彩売り。

何処か慈愛すら感じるその笑みは、
恨み悲しみの赤い波に掻き消された。












「…っ、化猫めぇええ!」


目の前でまざまざとその光景を見せつけられた薬売りは、
唇を噛みしめ手を翳して襖をしめていく。


今自分の後ろで震える命を守る方が重要だと考えた。



閉め切った襖に、血のような赤が染みでてくる。
それはモノノ怪の気配を色濃く孕んだもので、部屋には鋭い殺気が満ちた。






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