羅針盤と銃一丁

□子供な大人と大人な子供と
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その沈黙を破ったのは、



「…あの、
手伝えることがあれば、何か…!」



御酒を届けに行っていた加世だった。


彼女の言葉に、薬売りは嫌味な笑顔を浮かべ小田島へちらりと視線を向ける。


「有り難い…。
そこの口ばかりの木偶の坊よりは、
よっぽど頼りになる…」



視線を受けた小田島が顔を真っ赤にさせ喚き叫ぶも、
薬売りはそれらを全て無視して加世へと向きなおった。



からからから…


無視をされ更に顔を赤くする小田島は、
軽い笑い声にふとその口をつぐむ。
そして隣へ視線を動かせば、
愉快そうに笑う彩売りが目に入った。


「な、何が可笑しい!!」


怒りの矛先が己へ向いた事に気づいた彩売りは、笑みの浮かんだ口をそのままにゆっくりと小田島へ視線を合わせる。


「いやですねぃ、小田島様はからかわれてるんですよ。薬売りさんに」



「………な…、何だと!?」

またからからと笑う彩売りに小田島は一瞬呆けて見とれるも、すぐに我にかえり怒鳴りちらした。



そんなやり取りが背後で続く中、
薬売りは淡々と加世に天秤の説明をしていく。
最初こそ驚いて指を引っ込めていた加世も、慣れてしまえば天秤の愛らしさに破顔していた。




こちらへ顔を向けた小田島が、
またも大声をあげる。


「…それは何だ!?」

「天秤も見たことがない、?」

「天秤!?」


学習のないやり取りに、彩売りと加世は顔を見合わせため息をつく。




「遊ばれてるって、教えて差し上げたばかりですのにねぃ…」



肩を竦める彩売りに、その様子さえ絵になるのか加世が僅かに頬を染める。



そして、彼女の性格なのか思った事を素直に口にした。


「彩売りさんて、ほんと綺麗よねー…。
薬売りさんとはまた違った
綺麗っていうか…、……鮮やか?
髪とか目とか…」





しげしげと見つめてくる加世に苦笑を零し、彩売りは己の髪を指で軽く弄んだ。


「こいつぁ、自前なんですんでねぃ。
染めた訳じゃあありやせんよ。」



それを聞いた加世は目を見開いて驚き、
彩売りの髪を一房手に取った。


「自前なの!?すごーい!!」



はしゃぐ加世に、彩売りは少しくすぐったそうな表情を浮かべる。



隣では、薬売りと小田島がまだ言い争いを続けていた。
ただ、かなり一方的ではあるのだが。






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