羅針盤と銃一丁

□子供な大人と大人な子供と
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加世は伊國に酒を届けるため部屋へ戻り、
彩売りと小田島と薬売りの三人は部屋の周りで塩の囲いを作っていた。



「……何を仕出かすかと思ったら…」


塩の壷を持って薬売りの後をついて歩く小田島は、呆れたように鼻で笑う。



「虚仮威しのハッタリもいい所だな」



しかし、薬売りはただ淡々と塩で線をひいていくだけで答えない。

彩売りは彩売りで、首から下げた貝の紅で障子の一枚一枚に何やら奇っ怪な紋様を描いていた。






沈黙が堪えられなくなった小田島は、
なんとか返答を得ようと薬売りにちょっかいをかける。

「なんだ、こんなもん…」



塩の線を踏もうとして、しかしそれは薬売りが小田島の足の下に差し入れた退魔の剣によって阻まれた。



驚いた小田島が顔をあげると、
鋭く牙を剥く視線とかちあう。
背につう、と冷汗が伝った気がした。


「……茶々を入れるのはいい…、
…だが、線を、切るな。」



低く地を這うようなその声音に、
思わず小田島は唾を飲む。
しかし、意地なのか強がりなのか、
薬売りへと食ってかかった。


「線!?塩のか?
ただの呪いだろうが、何を大袈裟な!」


鼻で笑ってみせたが、
その声が若干奮えていたのは
御愛嬌といった所か。




そんな小田島にちらりと視線を寄越した彩売りは、くつりと笑うとまた素知らぬふりを決め込んで己の作業へと戻っていった。




「…そう思っているならそれでもいいさ。
だが、この塩の囲いを踏むな。
…絶対にだ。」



薬売りはそう言ってのけると
また視線を床へと戻し、
それ以上は口を開こうとはしなかった。

重い威圧を含んだ物言いに、
小田島は再び冷汗を浮かべ押し黙る。






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