羅針盤と銃一丁

□貌、形、状、容
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ご…ごごごごごごごごごごごご…






突然、地鳴りのような轟音が響く。







はっとして顔をあげ、
壁に視線を投げてみると


札が朱へと染まり、
紅はその色を紫に変えていた。







「!!」


突然、何かに気づいた薬売りが
弾かれたように走りだす。

その先では、






「どういう仕掛けか知らないが、
そのからくり、暴いてくれる!!」





小田島が、
今まさに襖を開け放とうとしていた。



薬売りは小田島の襟を引っつかむと、
後ろへと力の限り投げ飛す。




「うおおおおおおっ!?」



小田島はどしんと尻餅をつくと、
その場で目を瞬かせた。
薬売りのあまりの早業に、何が起きたのか把握しきれていないようだ。







ぱん!



小気味良い音と共に彩売りが襖を閉めた、
その瞬間、





ごおおおおっ!




襖の向こうを、ナニカがもの凄い速度で通過していった。









「……気配が去りやしたねぃ…」





彩売りの呟きで我にかえった小田島が、
小さく震える。



「な…っなんだあれは…!
姿形はよく分からんかったが…」



薬売りはしゃがみ込むと、
目線を小田島へと合わせる。

否、その視線は小田島を通り抜け部屋全体を眺めまわした。



「言ったろ、モノノ怪、だと…。
結界の外に出れば、奴の餌食だ。

結界もいつまでもは保たん。
このままでは早晩……、」



そこで一旦言葉を切り、
薬売りは視線を部屋の中央の肉塊へと向けた。


ごくり、と誰かの喉がなる。




「…あの、様に……なる。」




皆の肩がびくりと震えた。
己の身を弥平へと置き換え、想像でもしたのだろう。

その様子に、
彩売りはくつりと笑いを零す。





「…モノノ怪は、斬らねばならん。
しかし、退魔の剣を抜くには条件がある。
“形”と“真”と“理”を、
剣に示さねば抜けん…。」








ふと、彩売りが音もなく小田島の服へと手を伸ばした。




彼の指の先には、黒く太い剛毛が三本…






薬売りは、それへ視線を合わせ、


「…まずは“形”、これは、化猫だ…」







口元を歪ませた。











カチン!









剣が、肯定するかのように鳴いた。







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