羅針盤と銃一丁

□蝉が告ぐ
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広い広い坂井の屋敷。

祝い一色だったその空気は何処へやら。
いつの間にか太鼓の音は遠退き、天井裏の鼠もその息を潜めた。


沈黙が訪れた中、
伊顕がぽつりと呟いた。


「塩野にも、
真央の事を伝えねば…
…誰か、使いを」


それに、
勝山がいち早く反応を示す。
ばっ、と膝を立て、いち早く意見を口にした。

「殿、それは未だなりません!」

「何故じゃ?」

「輿入れの日に花嫁が頓死した等知られては、塩野が何と思うか…」

勝山は更に見を乗り出す。

「塩野だけならまだしも、
お上に知られては!
ここは、急病という事にして時間を稼いだ方が…!」


勝山が力説するなか、
彩売りがふと顔をあげた。

例えるなら、猫が背伸びをするような。
そんな、微かな空気の動きを感じたのだ。



「………………………」


彩売りの顔は、ひどく無表情だった。



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