羅針盤と銃一丁

□玩具だと語る
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「斬るんです。…モノノ怪を」




“モノノ怪"


予想だにしなかったその言葉に、小田島は暫し思考を止める。

もののけ、つまりは、人外なる化け物。
お伽噺草子の中の生物。


―――在り得ない。



「……ッぶ…無礼者!!
此の期に及んでまだ其の様な事を…!!!」


怪しく、不敵に笑う薬売りに、
小田島がからかうなとばかりに唾を飛ばして吠えた。

くつり、からからから…

その横で、
彩売りがさも愉快そうに笑い声をたてる。

それは薬売りの馬鹿馬鹿しい言動を嘲笑けているのか。

まさか、それとも、

在り得ないと吐き捨てる己を嘲笑けているのか―――…、





そこまで考えて、彼はやめたやめたと思考を止めた。
馬鹿馬鹿しい。雰囲気に飲まれるな。

少し冷静になろうと深呼吸をして、小田島はぐ、と腹に力を入れた。

未だ響く笑い声が恐怖を煽るが、
彼はそれを散らす様に怒号をあげた。


「何がモノノ怪か!不吉な!!!」



信じぬぞ、と全身で語る彼に、
彩売りはまたくつ、と笑いを向けた。



「何の…細工だ、これは?抜けんぞ」


そんな小田島の横から興味津々に手を伸ばしていた伊國が、弄り回していた薬売りの刀を片手に首を傾げる。

そして、つまらん、とばかりに玩具に飽きた子供がやるように乱暴に小田島へと投げ渡す。
抜いてみろ、という事だろう。


「何の仕掛けもありませんよ」


ぬおおお、と刀を抜こうと力む小田島に向かい薬売りが言葉をかける。
それを無視して暫く戦っていた彼だったが、結局は軋みすらせず無駄に終わったようだった。


そんな様子を横目に、


「お前なら抜けるのか?」


伊國は薬売りへ問うた。


「…未だ、
無理ですね。」


薬売りがさらりと否定すれば、
その答えがいたく気に入ったのか
伊國はまたも面白げに笑う。

「また、“まだ”、か」

――なら、何時になれば抜けるのか。


暗に嘲けられ、しかし薬売りはその挑発に乗ることなく淡々と返す。


「斬る“モノ”の“形”、“真”、“理”。
その三つが揃わなければ…抜けません。」

「面白い男だ。」



言う割には挑発に乗らぬのが詰まらないのか、伊國はふん、と鼻をならして胡座をかいた。
薬売りはそれに満足気に目を細めると、
やはりなんの感慨もわかぬ様な声でおどけてみせた。



「心外、ですね…。
つまらない人間ですよ、俺は…」



極彩で怪しげでもののけ、などとのたまう男の何処が詰まらんのか。

女中達から融通がきかなくてつまらない男、と噂される小田島は、疲れたようにため息を吐いた。




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