羅針盤と銃一丁
□曲者
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「動くなよ、
お前らが一番怪しい事にはかわりないからな」
薬売りと彩売りは、
屋敷の中へ引っ張られていくなり
手を後ろに縄で戒められてしまった。
その厳重な体制に、彩売りはくつりと苦笑いを零す。
「…せめて、
奥に札を、
貼らせて貰えませんかね?」
「札あ!?」
「今なら、まだ、
札を貼っておけば、
…ふせげるかも、しれない」
薬売りは憮然とした様子で
もう一度札を貼らせてくれと頼むも、
「そんな事を言って逃げる気だろう」
眉を寄せた小田島にばっさりと
却下されてしまった。
「この男達の荷物は調べたか?
真央様は毒薬にやられたのかもしれん」
勝山の言葉を、伊國は鼻で笑う。
「…さっきは斬られてるって
言ってたぜ?」
楽しくて仕方ない、といった様子の伊國に、強くは言えぬ立場の勝山はぐっ、と不満を飲み込んだ。
そこへ、
二つの箱を抱えた下働き、弥平が息をきらせて現れた。
見た目からしてかなりの古株であろう彼は、二つの荷箱の重さが堪えたのであろう、ふらりと床に手をついて崩れるようにしゃがみこんだ。
「こ、こちらで、ございます」
「よし、開けろ」
「…へいっ!」
またも酷使される彼をぼぉ、と眺めていると、つん、と背中になにかが触れた。
視線だけそちらへ寄越すと、
加世が背後に来ていてこそりと話し掛けてきた。
「なんだか、大変な事になっちゃいましたね」
「そうですねい」
彩売りはくつりと笑う。
「皆様の御疑いも尤もですがね」
薬売りは、前をむいたままさらりとかえした。
「伊國様は面白がってるだけですよ!
笹岡様が甘いからもう好き放題、
あっちの勝山様は弟の伊顕様寄りだから、
そっちの方が大事みたいだし。
弥平さんは下働きの中では古株だけど、
あの人はもう期待するだけ無駄って感じ。
小田島様がもう少し融通効かせてくれたらなあ…」
加世は頬に手をつき手厳しい言葉を並べていたが、ふと外へ視線をむけ驚いたように顔をあげる。
「あれ…?
陽があんなに低く…
ヤダ、明かり取ってこなきゃ…!」
加世が慌ただしく廊下へ走っていったのを見届けると、
彩売りは再び視線を前へと戻した。
ちょうど、小田島が
それぞれの箱の一段目の引き出しを開けている所であった。
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