君が世

□本番前の休話
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「セブルス殿、あとはヨモギは御座りませぬか?」

「ん」

「かたじけない」



ぐつぐつと音をたてる鍋は湯気をあげ熱く煮たっていて。
中の深緑色の液体を見たセブルス殿は、腰掛けた“そふぁ"なる座具の上から興味無さそうなふりをしてしかしちらちらと此方を伺っている。


「よし、上出来に御座りまするね!」


とろりとしてきたそれを火から下ろせば、
拙者は満足気な息を吐いてほっかむりをとった。
久しぶりに作ったが、やはり体に染み付いた慣れというものはきちんと仕事を覚えていたようだ。

慣れた手つきで液体を平たい盆の上へ流し込んで日にさらしていく拙者を黙って眺めていたセブルス殿は、いい加減こもる湯気が暑いのか不思議な箸で熱気を一掃していた。

そんなに暑いならそのまっくろな蝙蝠簑を脱げばいいのに。



「…で、それは何かね?」

いい加減教えろ、と言いたげな口調。
それにからからと笑いをこぼしながら、拙者は五つ目の盆を日向へ置いた。

振り向いた先のセブルス殿はやはり眉間にシワが寄っており、人目で機嫌が伺える。


「兵糧丸に御座りまするよ」


滲んだ汗が熱くこめかみを伝う。
一仕事終えた満足感に口角を上げれば、彼は益々シワを寄せた。

「兵糧丸とはなんだ?」

「簡単に言えば、忍用の携帯食に御座りまする。
味はあまり良くはありませぬが、栄養は詰まっております故、一粒で一日は動けまするよ」


何処ぞの忍はこれでチャクラを回復するとか。
…まあ、それは別の話。



「忍者食?
それが何故必要なんだ。」

ホグワーツでも食事は出るだろう?

そう問われ、拙者の瞼の裏には昨日のこの城での夕飯が思い浮かんだ。

…それだけで胃がげんなりとするのは、きっと気のせいではないはずだ。



「拙者の国では、主食は米、おかずに魚、煮た野菜、味付けは塩や醤油。
肉などはめったに食べせぬし、何より日本では牛の乳を使った料理など一般の人間は見たことも御座いませぬ!」


嗚呼、米が恋しい…。

遠い目をして乾いた笑いを溢せば、セブルス殿も食文化の違いか、と納得したように頷いていた。


金の大皿一杯に並ぶのは、油がてかてかと光る肉料理。
深皿には白くどろりとした液体がたゆたい、杯には夕日色の甘過ぎる汁が注がれる。

そんな食生活。

このままでは、英雄殿との再会以前に拙者の胃が崩壊してしまう、というわけで。

「せめて、兵糧丸で栄養を、と思いまして」





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