君が世

□Side:S
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左手につまみ上げた体は細い。

片腕で持ち上げられる程度の体重しかないそいつは、全てにおいてが実に奇妙であった。



見つけたのは、本当に偶然。

夏休みなのでホグワーツ内に生徒はおらず、巡回をする必要もない教員達は皆自由な時間を過ごしていた。
我輩もその例に漏れず、
今夜は禁じられた森へと足を運んで馬鹿にならない薬草代を少しでも浮かせてこようかと考えていた。

しかし、その計画も大広間の前を通りかかった所で成し遂げられない運命となる。


何気なく見遣った大広間の扉は完全に閉められてはおらず、微かながらもその中身を曝す。
その中に、我輩は日常から切り離されたかのようにぽつりと佇む異分子を見つけた。

身に纏う真っ黒な民族的装束は全て布一枚で繋ぎ止められており、ボタンなどは一つも見受けられない。
いつの時代のものだ、と思うようなぼろぼろのそれは、所々が炎に巻かれたかのように焦げて炭となっていた。


後ろ姿ではなんとも判断のしようがないが、恐らく少女であろうその細い体は目を凝らさなければわからぬ程度だが確かに震えていて、


教員である己が知らないということは間違いなく侵入者なのだろうが、
頼りなく突っ立つその存在は、迷子という方が表現があっているような気がした。


声をかければ、少女は動揺しながらも身構える。
その動作は素人目から見ても洗練された動きでなされていて、この魔法が世を成す時代において、珍しくも肉弾戦に慣れているように思えた。
怪しい、改めて思えば、少女の目には先程までの迷子の様なか細さはもう見受けられなかった。

おまけに、あの言語。
ジャパニーズのようだが妙に古めかしく、
しかも一般人にはありえない身のこなしや武器を所持している。
そして極めつけには、杖を箸と呼んでみせる馬鹿っぷりだ。


明らかな不審者。


しかし、今己の手の内でぶらぶらと大人しく運ばれる奴を見ていると、やはり、なんだか害というものを一切感じさせない雰囲気であった。


下らない、ほだされてなるものか、

第一印象を頭の隅へと追いやりつつそう改めて噛み締めると、我輩は校長室への道のりを更に早足で進み出した。

視界の端でゆらゆらと揺れる奴の白い髪が、しょげた尻尾のように揺れていた。





(白猫、というにはあまりに化かされている気がしてならない)




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