鬼さんこちら、

□命、多々
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「なんで、
誰もわかってくれないんだろうなぁ。

なあ、ニーナ…」



掠れながらも聞こえてくる彼の声。

わかってくれない、そう呟くそれは余りにも不安定で。



わかってないのは、あなたなんです





「タッカーさん」




雷が一つ轟き、私の影を切り取る。


彼は心底驚いた、という顔をして、しかし視線はニーナから外す事はなかった。




「…なぜ、君が此処に?」




尤もな質問。
しかし私は答えない。




「動けない程、怪我をしていた筈だ。
それに、外には憲兵だって、」


「彼らには、風邪をひいてもらう事になるかもしれませんね」




申し訳ない、そう眉根をよせれば、彼はゆっくりとこちらに顔を向ける。



「怪我は、治しました。自力で」




信じられない、そんな表情。
だが、現に私は元通りの身体だ。

ごく一部を、除いて





「ニーナを、
私に預からせてくれませんか」



彼に向かって差し出した右手。

そこに、約束の指は存在しなかった。



彼は、それに力無く笑いを零す。





「は、はは…、預かってどうする?
実験動物にするか?それとも見世物!?」




ぐるぐる、ぐるぐる
虚しい程大きい屋敷に響くそれ。
笑い続ける彼は、だけどその身体が酷く震えていて、




「肯定、して欲しいんですか?」



口から出た言葉は、
予想外にか細いものだった。


「何?」

「自分は狂ってないって、大衆化したいんですか?」
「何を、」
「貴方は、わかってるでしょう?
皆はわかってくれないのは、ほんとは間違ってるからだって」
「ち…違う!」




彼は被りを振る。
口から漏れるのは、意味を成さない音ばかり。



私は、必死になってたんだ。
昔の彼に戻って欲しいって、




だから、己の後ろに佇む存在に気づくのに、こんなにも遅れた。








「ショウ・タッカーだな?」






ぞくり、
凍りつく背筋。

吐き出された言葉に混じり背中に当たるのは、痛い程の殺意。





「…っ!」



防衛本能、或は無意識の咄嗟。

私の繰り出した回し蹴りは、しかし後ろの人影に届く事はなく。


掴まれた頭から感じた衝撃は、
私の中身を“破壊”した。




崩れ落ちる身体。
噴き出す血は視界を紅く染めて。






嗚呼、なんてこった。



私、死んで、しまった




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